第36話 再評価の可能性
「私は、確かにあなたたちのいうように、聖女の器には相応しくないかもしれない。でも、彼女は自分がどうなるかわからないのに、私を庇ってくれた。今だって自分の運命と戦ってる、そんな彼女を穢らわしいなんて表現するのは許せないわ」
リイナは3人の方をまっすぐ見て、そう訴えた。
肩をプルプル振るわせながら、耐えることしかできないか弱い令嬢かと思えばそうではなかった。
だから、私も、彼女たちもその言葉の強さに驚くしかできなかった。
「聖女から引きずり下ろしたいならどうぞ!あなた方のお母様と一緒に、神父様に直接抗議すればいい!でもその時同時にあなた方の品位を問うわ、それが何を意味するかわかるでしょ?」
聖女とは仕事の都合上、品性も問われる。
もしリイナがその座を剥奪されたとしても、聖女選定する神父の心象が悪くなれば、再選定で影響する。
それに焦った彼女たちは声を荒げる。
「何を小癪な」
私はクロウの手を払いのけると、今度こそ彼女たちの前に出ていく。
もちろん、暴力行使なんかしない、あくまで笑顔でエレガントに対応するつもりだ。
「あなたたち」
私の声を聞いた彼女たちは一斉にこちらを向く。
リイナはパァッと笑顔になり、残り3人は話を聞かれたと焦ったのか顔を曇らせる。
「る……ルナ嬢……」
「あなたたち……聖女候補だった人たちかしら?」
「だったら何?」
「騒がせて申し訳ないわね……私のせいで、せっかくすでに決まった聖女の件で揉めてるんですって?」
「……」
彼女たちは押し黙る。
すでに決まった聖女と強調したことで、リイナが聖女せあることは変わりはなく、譲る気がないのだと圧をかけられたのだと理解したのだろう。
「決まったことで変えられぬ決断に物申すなんて、聖女候補だった人間ともあろう方々が、小さいですわね。」
「は、伯爵令嬢程度で何よ偉そうに!」
「あなたがお間抜けにも、呪われるから、彼女が責められてるんじゃない!」
「そうよ、彼女の立場が危ぶまれているのよ!?彼女の立場の邪魔をして、親族としての恥はないの!?」
「まぁ……さすがは貴族ご令嬢の皆様……、お優しいですのね。さっきまで散々うちのいとこをせめて下さったのに、今度は私を悪者にしてその子を守ってくださるなんて。」
私のその言葉で、自分たちの意見が焦って矛盾していたことに気がつくと、令嬢たちは
皆、苦虫を噛んだような顔を浮かべた。
「ごめん遊ばせ、口が過ぎましたわ。」
私はわざとらしく手の平を口に押し当て、謝罪したけれど、心の中では舌をベーっと突き出していた。
全く、文句が言いたいなら、せめて相手を見て手のひらくるくるしてないで、意見を一貫させ欲しいものね。
それとも、文句が言える相手なら誰でもいいっていう単細胞的発想なのかしら。
どちらにしても怒りの沸点の低い人たち。
私は彼女たちをかわいそうに思いながら、手を緩めることなく発言を続けた。
「確かにリイナには、私の呪いを解くことはできないわ……生命力を与える力じゃ、どう頑張っても無理。でも、あなたがたの誰かなら、案外できるかもしれないわね。あなたたち、リイナの代わりに聖女に名乗り出るくらいなら地震あるんでしょ?」
私は彼女たち3人をギョロッと睨み、ゆーっくり一人一人視線を合わせていく。
だけれど、面白いことに私と目があると、みなふせたり視線を逸らしたりして、誰も私と顔を合わせようとしない。
全く大層な性格してるわね。
「浄化の力を持っている候補さんはどなた?治癒能力でもいいわよ。呪いが解ける自信があるなら、なんでも。ほら。」
「……」
もう一度3人を見るけれど、うんともすんとも言わない。
まさか、浄化も治癒も使える人間がいないってこと?
そんなわけないわ、私は知ってるもの。
さっき2人を諌めたフリをして、リイナを攻撃した中央にいる彼女。
確かキャシーって名前。
彼女は浄化の能力を持っているって聞いたことあるもの。
でも……
「どうしたのよ……チャンスでしょ?あなたたち自分で言ったのよ?私の呪いを解けば、リイナの立場を奪って、自分が聖女と認めてもらえるんじゃないの?」
「……」
名前をあげないってことは……
「失礼するわ」
結局、呪いを解くほどの力はない、と自覚してるわけね。
情けない。
「全く、口ほどにもない」
あーあ、とはいえ、ちょっとは期待したんだけどなぁ。
浄化の魔法で呪い解けないかなって。
まぁ、できたら、とっくに治療に来てくれて、ポイント稼いでるか。
私は逃げていく3人の背中を冷めた目で見送りながら、ため息を吐いた。
「ルナ!」
そして一息ついてすぐ、元気なリイナの声が聞こえた。
そして、ガバッと私の体に腕を巻きつけ抱きつくと
「ありがとう」
とお礼を言われた。
その腕の強さから、リイナの気持ちが伝わった気がした。
何言ってるのよ、お礼を言うのはこちらの方だわ。
「私の方こそありがとう、庇ってくれて。」
あんな状況で、勇気振り絞って私のこと庇ってくれたんだもの。
これ以上望むものはないわ。
「あ、でも、勝手に神殿抜けたしたことは、私許してないから」
「あー……。」
そうだった。
脱走して戻ってきたとことで、そのことリイナにバレてるんだっけ。
この状況で色々誤魔化して終わりにならないかなーと思ったんだけど
「どこ行ってたの?っていうか無断で外でちゃダメでしょ!」
忘れてくれるどころか追求されてしまう。
「ちょっと用事があったのよ!」
「用事って何!?」
「内緒!」
そういうと、リイナの私に巻きついて腕が、次第に力を強めていく。
これ以上はさっきまでの心地のいい強さではなく、腹に食い込むような力で、本格的に苦しくなる。
その小さな体のどこにそんな力が残ってたのよ。
そんな感じで、私が詰められていると、角から顔をひょっこり顔を出したクロウが見えた。
彼の一言は、心配するでも助けるでもなく、これだった。
「終わった?」
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