第1章 聖女を魔女から救った結果
第1話 不審者チェック過保護な聖女のいとこ
「不審者が忍び込んだ形跡はなさそうね……。とりあえず大丈夫だろうけど、安心できないわね。」
大事な聖女の儀式の日、何かがあってはここまで頑張ってきた意味がない。
とにかく今日1日は安全を確保しなければ!
なんて、勢いづいている私に、そばにいた少女は少し引き気味に声をかける。
「ルナ……もういいんじゃないかな?」
「何言ってるのリイナ、万一のことがあったら大変でしょ?」
敵はいつどこから狙ってくるかわからない。
何なら、もっと入念にしてもいいくらいだ。
私は引き続き、オレンジの髪を振り乱しながら部屋の中を歩き回り、入念にチェックする。
それでもリイナはまだ私を止めようと声をかける。
「でもねルナ……本当にそこまでしなくてもいいよ……?儀式は今日の正午だし……ここまで何もなかったんだし……ね?」
「この前も話したでしょ?最後まで聖女の座を争った令嬢が、何者かに襲われたのよ?あなたの命も狙われてるかもしれない!」
でも、その危機感が伝わっていないのか、リイナは困ったようにおずおずとこんなことを言ってきた。
「あのね、ルナがそこまでしなくてもいいんだよ?聖女の儀式をするのは私なんだし……。」
少し心に言葉が刺さる。
確かに、私は聖女ではない……他人といえば他人だ。
しかし時に、自分のことよりも大事で、必死になることだってある。
「従姉妹だもの、心配だってするわよ!とにかく、リイナは儀式が始まるまで、絶対にここからでちゃダメよ!」
「そんなぁ……もう一週間、ここから外に出られてないんだよ?ちょっとくらい……」
リイナが不満を口にしたその時、コンコンという慎ましやかなノックが聞こえてきた。
扉が開くと、使用人が顔を覗かせる。
「リイナ様、神殿から遣いの者が……」
「あ、すぐに通して、多分今日のこと……」
「待って」
私はリイナの声を遮って止める。
その神殿の使いという人が、本物かどうかわからない。
いきなりリイナに会わせるのは危険だわ。
「先に私が確認するわ。私を連れてって」
「ルナ、神殿の人まで疑うつもり?」
ようやく他人と会えると期待していたリイナ。
何なら、この部屋を出る口実になると思ったのだろうけれど、私がそれを許さない
「変装してるかもしれないでしょ?暇なら見張りにフィリック呼んであげるから、ここで待機してなさい」
「ルナ!!」
私はリイナの講義の声を無視して部屋を出ると、使用人のうちの一人に見張りを呼ぶように言いつける。
そして、もう一人の使用人と一緒に、神殿の人間かどうかのチェックをするために玄関ホールに向かう。
呪いをかけるのはピンクの髪の子供。
彼女は魔法使いだ……変身魔法くらい使えるかもしれない。
用心深く確認しないと……リイナには手を出させないんだから!
なんて意気込んで玄関ホールに足を踏み入れると、神殿の服に身を包んだ人以外に、騎士の服を身に纏った青色の長髪を一つにまとめた髪型をした男性がいた。
「クロウ……あなた何でここにいるの?あなたには人探しを頼んでたでしょう?」
「いいや、見つかってないよ。でもお客様の対応をしたほうがいいかなと思って。」
「ありがとう、でもそれは私がやるわ。不審者かもしれないし。」
「不審者チェックはこっちでやったよ、魔法を使った形跡もない。本物の使いだ。」
彼にそう言われて、使いの者たちの方に視線を送る。
確かに、怪しいところはなさそうだし、彼の目に間違いはないだろう。
「……わかったわ。リイナの部屋へ案内して。後から私も行くわ。」
私はため息をつくと、ここまで案内してくれた使用人にそう伝える。
そして使用人が神殿からの使いを引き連れて、リイナの部屋にいくのを見届けると、後ろにいるクロウに声をかけられる。
「人の屋敷だっていうのに、我が物顔で使用人に指示するのすごいね」
「親戚だし、爵位も同じだもの。やって悪いことはないと思うけど?」
「……ほんと……前々から思ってたけど、過保護が行きすぎないかい?」
「いとこが聖女の儀式を無事に終えることを願って何が悪いの?それよりも、まだ見つからないの?ピンクの髪の子供」
「まだだよ、っていうより、本当にそんな子供がいるのかい?例のご令嬢を狙ったのが子供っていうのは僕も一緒に聞いてたけど、ピンクの髪っていうのはどこ情報?」
「……企業秘密」
「言ってくれなきゃ、これ以上捜査の枠を広げられないよ?」
「……」
私はクロウにそう言われて、バレないように握り拳を作る。
そんなことを言われても、言えないものは言えないのよ。
過保護になった理由も、ピンクの髪の魔女のことを知ってる理由も、全て前世の記憶に紐づけられるのだから。
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