転生したら聖女（ヒロイン）のいとこになりましたー呪いを身代わりで受けたところ懐かれてますー

第3話 神との対話、前世のお礼。

時間をさらに巻き戻そう。

これは今から１５年前、転倒した時から遡ること７年前……というより、ルナとしてこの世に正を受ける直前の話だ。

前世の私こと水戸琴音は、自分の部屋ではない、真っ暗闇の静かな空間で目を覚ました。

まだ目覚めたばかりで頭がはっきりしていなくて、ここがどこなのか理解できずにいると、誰かの声が聞こえてきた。

「あなたは死にました、水戸琴音さん。」

そして私はその声がする方向に顔だけを向けると、誰かの姿が目に入った。

白い服を着た、華奢で少年っぽさを残した金髪のその青年だ。

本当なら、このような状況で誰か人がいたら、『あなたは誰？』とか『ここはどこ？』とか、話を理解できないでパニックになると言うものだろう。

最悪でも夢を疑うはずだ。

でも、私は違った。

だって、その人物の顔を………私は知っていたのだから。

「リオスだあああああああああああ！！」

私はガバッと体を起こして叫んだ。

それこそアイドルのコンサートで推しメンが出てきたなみに発狂した。

それもそのはず、だってそれは……自分が生み出した物語『呪いを受けた聖女』の登場人物……つまり架空のキャラクターがそこにいたのだから。

「私、もう死んでもいい。」

「だから死んでるんですって。」

私が涙を流して喜んでいると、リオスに冷静にそうツッコまれた。

そういえば、さっきも彼はそんなことを言っていたっけ。

感激の感情の方が強くて左から右へと聞き流していた。

私は彼の言葉にようやく返事を返す。

「……死んだ？そんなわけないじゃん。私、元気なのに。」

「あの状況で元気と呼べるかどうかは微妙だと思いますよ？心当たり、本当にありませんか？」

そんなことを言われても、心当たりなどない。

会社の健康診断で、特に何も引っ掛からなかったのだから。

まぁ、アラサーにもなって、漫画家になりたい夢を持ってた私は、

正社員で働きながら寝る間も惜しんで漫画の原稿を連日仕上げて、もう何日も徹夜してたけど……

「さっきもいつも通りお風呂に入って……」

「その風呂で、あなたは溺死しました。」

「溺死？お風呂で？」

うちのお風呂、溺れるほど深くないはずだけど……そんな私の疑問を見透かした神様は、こう付け加えた。

「よほどが溜まってたんでしょうね…お風呂は満タン状態で、眠った後湯船に顔が沈み、目が覚めることなく、そのままです。」

「何それ……なんか恥ずかしい……」

こんな生活してたら、いつどうなってもおかしくないなぁ……なんて思ってたら、まさかそんな最後を遂げるとは。

服着たままなのが逆に恥ずかしい……。

「そっか……私、死んじゃったのか……。じゃあ、リオスがあの世の案内人？」

なるほど、あの世への案内人がリオスか……適任ね。

こんな丁寧に話している彼だが、彼は私の物語の中で『神様』と言う設定のキャラだ。

だから、死んだ人間の魂を迎えに来ることに何の違和感もない。

「天国なり地獄なり、どこへでも連れてってちょうだいな」

家族も疎遠で友達もいないし、リオスも登場する子供の頃から温めてた『呪われた聖女を』漫画かいて、アニメ化にでもなればなぁ…って思ってたけど、その夢も今からじゃ叶わなさそうだしね。

生き返ることができたとしても、楽しい人生は今からじゃ送れなさそうだ。

死ぬ時はもっと未練や公開で溢れているものかと思ったけど、案外あっけなくて、なんとも思わないものなんだね。

そんな投げやりな私を見て、リオスはがっかりした表情を浮かべた。

「よろしいのですか？」

「うーん、まぁ未練はないかな。」

「そうですか……困ったなぁ……お礼がしたかったのに……。」

「お礼？」

はて……お礼と言われましても。

今日初めて言葉を交わした彼らに、お礼をされるようなことはあっただろうか。

少しそんなことを考えた私に、リオスはこういった。

「僕たちを……そして僕たちを生み出してくれたので、そのお礼に、次の人生『人生リセット』か『転生』のどちらかを選ばせてあげようかと思いまして。」

「て……転生できるの！？」

「はい、何なら世界と生まれ変わる人物の指定までできますけど……」

「だったら、私……転生したい！私、自分の作品の、リオスも出てくるあの物語の世界に行きたい！」

実はアニメ化以外にももう一つ夢があった。

厳密にはこっちの方が夢に近いのかもしれない。

死ぬ間際……もしくは転生できるのであれば、次の人生では自分の生み出した世界で、ヒロインと仲良くなりたいという夢が。

私の申し出に、リオスは目を丸くする。

「いいんですか？もう一度人生やり直して、夢を叶えたいとか、別の人生歩みたいとか……ないんですか？記憶そのまま過去に戻すことも……」

「いいの……仮に同じ記憶を持って同じ時代に生まれて人生やり直せても私にとって楽しい世界じゃないし、そんなことよりも皆んなのいる世界に行きたい！」

「冷静に聞いて考えると、なかなかキモい願いですね。」

『皆んなのいる』という言葉だろうか、自分の世界に行きたいと言っているように聞こえて率直な意見を言ったリオス。

その言葉にグサリと来たけれど、本心だから仕方がない。

「わかりました、夢を叶えましょう。転生した後は……どのキャラに生まれ変わりたいとかあります？ヒロインからモブ、動物、なんならあなたそのものを……と言うこともできますが」

「ヒロインのリイナとヒーローのフィリックは嫌！」

「あぁ……やっぱり死ぬのは嫌ですか？なかなかな悲恋ですもんね。」

「責めてる？仕方ないでしょ！悲恋好きなんだから！」

そう、私が転生を求めている、自分の作り上げた世界は

ロミジュリのような悲劇の物語の中で惹かれ合う二人、みたいな作品を作りたいと思って作ったわけので、悲劇な展開てんこ盛りなのである。

「そうじゃなくて！私は、この２人を極力間近で観察したいの！観察できるなら死んでもいい！人間でなくてもいいわ。」

「つくづくキモいですね。」

「わかりました。ではヒロインの一番身近なキャラに転生ということにしましょうか。」

「それでは新たな人生に幸あれ」

で……転生したのが……ヒロインのいとこ、ルナだったと言うわけだ。

なるほど……ヒロインのいとこ……限りなく彼女に近いキャラね。

黒幕に転生したのは、死んでもいいって言ったからかしら。

そして……階段に転ぶ直前の、あの『ダメ』と言う声は、前世の私の声だったのね……

全てを思い出し目を覚ますと、私は自室のベッドの上にいた。

ベッドの脇には……

「ルナ！大丈夫！？」

前世で死ぬほど会いたかったヒロインのリイナが、私の顔を覗き込んでいた。