第4話 私が過保護でいたい理由
そんな彼女を見た私の目からは、涙が溢れ出し、ボロボロと涙が流れてきた。
「どうしたの?頭、やっぱ痛い?先生呼んでこようか!?」
突然泣き出した私に驚いたリイナはそう言って慌てたけど、嫉妬と感激と愛着の混ざったグチャだった感情をどうすることもできず、
「リイナ……今までごめんね……」
顔をぐちゃぐちゃにして泣きながら、リイナに謝罪することを選んだ。
前世の自分の気持ちを思い出したから……というのが何よりも大きな理由だが、もう一つ、嫉妬の気持ちを抑えてでも、私がこの道を選ばなければならない理由があった。
それは……リオスも言っていた、この物語が悲恋物であることに関係する。
私の作ったこの物語『呪いを受けた聖女』を簡単にまとめるとこうだ。
ヒロインのリイナは、聖女の儀式の日、魔女ロベリアに呪いをかけられる。
心配をかけたくないリイナはそのことを黙ってたけど、ついに倒れてしまう。
リイナを助けるために、ヒーローことフィリックは黒幕を調べ尽くし、ついにリイナのいとこで恋敵のうちの一人のルナに辿り着き、ロベリアの居場所を問い詰める。
その甲斐あって魔女を殺すけど、間に合わずリイナは死んでしまった。
絶望したヒーローは、ルナのことを殺した後に自らも命を断つという話なのだ。
全く……リオスったら……。
確かに……あの時『死んでもいい』とは言ったけど、だからって本当に死ぬ黒幕のルナに転生させなくてもいいじゃないのよ。
とはいえ、せっかく転生してリイナの幸せをそばで見届ける願いが叶ったのだ。
リイナを死なせたくないのは当然として、夢を叶えた人間としても当然オチオチ死んでる場合じゃない。
だからもう、それまでの感情は全て流し、私はリイナが聖女になって、幸せな結婚をするのを存分に見届けようと心に決めたのだ。
親からのプレッシャーは、相変わらず強かったけど、ある意味気楽だった。
私が黒幕ということは、私が敵視さえしなければ、リイナは誰にも呪われないし、私も処刑されない。
本気でそう思ってた、先週までは!!
なのに先週、物語の冒頭に起きた事件が発生した。
なのに、黒幕の私が大人しくしてたはずなのに、原作通り話が進んだりしたら心配になるに決まってるじゃない!
なぜかはわからないけれど、私以外の誰かがロベリアを使ってリイナを呪おうとしている可能性が高い。
自分の子供のように思っているキャラが、死ぬかもしれないなんて!!!
いても立ってもいられない。
だから、私がここまで過剰にあの子を保護するのは仕方がないのよ!
と、いうことで、長い回想を終え今に至るわけだけれど……
こんな話……魔法があるこの世界でだって信じてもらえないわよ。
予知夢っていうには、私が犯人じゃない時点で、もう本筋だいぶズレてるからあんま使えないし。
クロウになんて伝えようか……と考えるよりは押し通した方が早いか。
「クロウ、あんた曲がりなりにも騎士の端くれでしょ!?昔馴染みの命が狙われているっていうのに、守ろうとかいう気概はないの?」
「僕が守らなくても、リイナには専属の護衛がいるでしょ?」
「そういうことが言いたいんじゃないのよ、守れる力があるのに、守れず知り合いが死にかけてもいいのかって聞いてるの!」
「飛躍しすぎじゃないの?元聖女候補の一人が襲われたからって、リイナが狙われるとも限らないだろ?聖女が決まってない時ならともかく、聖女はリイナに決まった後に直接リイナを狙わず候補を狙った理由がない」
「それは……」
確かに説得する材料としては弱い……
私の想定した物語では、『聖女を狙ってほしい』と頼んだけれど、ロベリアは森の奥で籠っていいたせいで、街の情報はほとんど遮断されていた。
だから人違いをした……という流れだったけれど、犯人が違う以上断言はできない。
でも、怪我を負った令嬢から金品は盗まれていなかったことを考えると、金目当てじゃない……そうなると、やっぱり聖女関係が理由としか思えない。
「『聖女』っていう共通点があるだけでも、私には不安よ。私はリイナが死ぬなんて嫌!今日は大事な儀式の日よ、危険なことは取り払うべきよ」
「だからって飛躍した推理で、一週間も部屋に閉じ込めるのは……」
そんな感じでクロウと言い合いをしていると、後ろの方からパタパタパタと足音が聞こえてきた。
振り返ると、先ほどリイナの部屋に行ったはずの使用人と神殿の使いの人たちがこちらに向かってきていた。
「ど……どうしたのあなたたち……リイナの着付けに行ったはずでしょう?」
「そ……それが……部屋にこのようなものが……」
そう言って、使用人は私におずおずと一枚の折り畳まれた紙を私に渡す。
ペラっと紙を開くと短くこんな文章が書かれていた。
『フィリックにお願いして、先に神殿に行くことにしました。着付けも向こうでします。 リイナ』
言葉を失って手紙を持ったまま沈黙していると、私の後ろからクロウが手紙を覗き込んでこういった。
「あーあ、閉じ込めたりするから、息詰まって逃げちゃったんだよ」
言われなくてもわかってる。
腹が立った私はピンヒールで彼の足を踏んでやった。
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