第38話 いとこのライバルの気遣い

「な……何を戯けたことを!もっと冷静になれ!本気で言ってるのか?」



「当然ですわ。今、このタイミングでお声がけしてどうなると言うのです?ましてや聖女のご親族が、とてもお辛い状況なのに、失礼極まりないですわ。」



「だが、条件のこともあるし、フィリック様が聖女を……」



「お父様、フィリック様の前ですわ。これ以上醜態を晒さないでくださいまし。」




侯爵はチェルシーの肩をつかみながら強引な説得を続けたが、それでも意思を曲げることはなかった。


その様子を見た野次馬3人集は感想戦を始めた。



「やっぱりチェルシー嬢は、自分で婚約を拒否してるね。」



「すごい芯がしっかりしてる方ね。」



「チェルシー様、最初に婚約の話を持ちかけてきたのも、こう言う感じだったみたいだよ?」



「しかし、一回こっぴどく断られてるのに、何回もくるのは、よくいえばメンタルが強いね。」



「よっぽど公爵と繋がり持ちたいのかしら……」



「やっぱり諦められなかったかな……絵私の立場が危ぶまれれば、婚約者候補の中では地位トップになれるだろうし……」



「リイナ、あなたもうちょっと焦った方がいいんじゃない?婚約者とられそうになってるのよ?いいの?」



「よくないよ?だけどさ……」



「あ、こっち来る。」



私たちの会話が聞こえたのだろうか、リイナが話している途中くらいでチェルシー嬢がこちらに気付き、こちらに向かって歩いてきた。


思わず背筋を直す私たち3人。


甲斐甲斐しくこちらの方に向かってくるチェルシー嬢からは、ふんわりと花の香りがした。



「ナイトメア伯爵令嬢。」



「あ……えーっと、フローレンス侯爵令嬢、ご機嫌麗しゅう」



てっきり、リイナに声をかけるのかと思いきや、まさかの関係性の薄い私の方に声をかけたので、驚きながらもギクシャクしながらお辞儀をすると、スッと一歩前に足を出し、私に近づいたチェルシー令嬢。



「噂は伺いましたわ……呪いを受けてしまわれたと……お加減は?」



「おかげさまで、元気でやっておりますわ。」



「ご回復をお祈りしておりますわ。困ったことがあれば、いつでもお声がけしてくださいね」



そう言って、私はチェルシー嬢からアザのある左手をぎゅっと掴まれる。


あまり意識したことはなかったけれど、こうしてみると綺麗な人だ。


白い肌にピンクの唇、淡い茶色の髪、さらさらのストレートの前髪、後ろの髪はシニヨン風にまとめ、花柄のヘッドアクセサリーが彼女の美しさを際立たせていて、女性でも思わず見入ってしまう。


と、思うと同時に、ルナとは別のライバルキャラ……うん、我ながらすごく気合いれて描いたんだなぁ……と自画自賛してみる。



「チェルシー、そろそろ」



そんなふうに見惚れていたから、それ以上話すことはできず



「失礼いたしました。それでは。」



チェルシー嬢は、ドレスの裾をつまみ、軽くお辞儀をすると、すぐにその場を立ち去っていってしまった。



「やっぱり、できた人ねぇ」



「だけど……やっぱり侯爵は快く思ってはいなさそうだね。」



そう呟いたクロウの先には、リイナを睨む侯爵の姿があった。

後にクロウはこういった、彼は野心に燃えた目をしている……と。

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