第41話 疑うリスク
「皇女だけを怪しいと言い切るのも危険だよ、他2人についても検討するべきじゃないかな?チェルシー嬢、彼女に関してはどう?僕は彼女の場合色々動機とか思いつきやすいうような気がするけど。」
クロウが他の人間の話を出す。
彼としては、チェルシー嬢を怪しいと思っているようだ。
「婚約者候補の中で、今一番動きが目立つのは彼女だな。あり得ない話じゃない」
「でも、本当にそうかしら……?」
私は彼らのその推測に待ったをかけると、みんなが私の方を一斉に顔を向けた。
彼女を庇う私が理解できないというような表情だ。
いや……庇ってる訳じゃないんだけどね……。
「……リイナがいなくなってストレートに喜ぶのはやっぱり公爵夫人を狙ってる人だと思うし。でも、それはチェルシー令嬢が乗り気じゃなきゃ、その節は成り立たないわ。公爵夫人の席を狙う人間が怪しいなら、チェルシー嬢に限らず過去の候補者も疑うべきだとは思う。」
「まぁ、確かに身を引いてるのは確かだしな。」
「演技かもしれないよ?」
まぁ、それを言われると否定はできないけれど……あの時の心遣いが嘘だとは、私には思えないのよね……。
結局、話はまとまらず、3人目の話に映ることとなった。
「聖女候補者については、キャシー嬢以外の人間も怪しいけど、その中で一番怪しい人物の名前をあげてみたの。」
「リイナがキャシー嬢を怪しいと思った根拠は?」
「浄化の魔法が使えて、私の次に聖女候補として名前が上がってたから。」
これまたわかりやすい。
つまり、もう少しで自分が聖女になれたのに、リイナに秀でる何かが足りずに逃してしまった、ということだろう。
一番聖女の座に座りたくて仕方のない人物……ということね。
「確かにキャシー嬢だとすれば、プリスト令嬢が狙われた理由にも納得いくわね。」
「いくらリイナがその座を退いても、他の人にその座をまた奪われたら努力が水の泡だしね。」
「だけど、ルナが路地裏で聞いた会話を推測すると、一度失敗してるんだよな?」
「その失敗も、必ずしもプリスト令嬢のことじゃないかもしれないよ?」
「確かに、ここで決めつけるのは早いけど……どうする?全員可能性0じゃないけど……」
「この3人の家の誰かの家にいるってことで、間違いないってことなのかしら……」
もちろん、それは囲われてるとしたら、の話だけれど。
でも、物は考えようだ。
ロベリアはは居なくとも、黒幕が見つかれば、あのこの何かしら情報を得られるかもしれない。
この推理が正しければ、あと一歩でロベリアまで手が伸びる……ただ……
「どうやって調べるの?一人一人調査入れる?」
その方法は取れなくはない……ただ、現実的ではないのは全員がわかっていた。
こちらの行動が読まれてはいけないし、そもそも、皇女様が候補の中に入っているのが難問だ。
「無理だな。資料室の件であれだけお怒りなんだ。皇宮にそんな疑いかけて捜査をすれば、今度こそ謀反疑われるだろうな。皇族を失墜させるつもりだって。」
「というより、皇女様を事情聴取した時点で、普通に不敬罪になるよね。せめて確実な証拠か、現行犯で捕まえないと。」
「……仮にいるんだとしてさ……どうやって探すの?一部屋ずつ、隠し通路含めて全部探すの?無理じゃない?」
「姿隠せるんだもんね……1つずつ探したとしても見つかるかどうか……」
「聖水を皇宮の中にばら撒くわけにはいかないしね……」
「……居場所の見当がつけても、手詰まりか……」
その一言に、全員が沈黙する。
今、ここで話し合われたのは、あくまで黒幕を推理しているに過ぎない。
ロベリアがいるかもしれない場所の仮の話だ。
当日のアリバイもわからない。
これ以上を調べるならもっと手続きを踏んで証拠を集めるしかない。
そうなると、話が一番最初に戻る。
最初というのは、呪いをかけられた後の出来事のことではなく、最初の最初、儀式直前と同じ状況。
『根拠はなんだ』
という話になる。
私は今回嫌というほど実感した。
これが説明できなければ、誰も協力してくれない。
ましてや今回皇女様が候補に上がってる……無謀なことはできない。
私はため息を吐くと、ソファーの背もたれに背中を預けて、天を仰ぐ。
半ば諦めモードだ。
「そもそも、まだ匿われてるって決まったわけじゃないしね。最初の予想みたいに逃げてるかもしれないし、最悪の可能性もあるし。」
「縁起でもないこと言わないでよ」
クロウはそんなツッコミを入れたけれど、でも本心だ。
だって、動けないなら、こんなのお遊びと変わらないじゃない。
もう少し、調べてからじゃないと……結局は動けない。
そんな私をみて、リイナは何か考えがあるらしく、膝の上で両手で拳を作り、ぎゅっと力を入れると、こんなことを言い始めた。
「見つけられないならさ……こっちからおびき出すのはどうかな?」
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