第28話 帰路と気分転換

あれからどのくらい時間が経っただろう。

一時間は経っていないのは確かだ。


パカラパカラと音を立てながら、走る馬に乗って、街の中を横切っていた。


そう、神殿に帰る途中なのだ。


手綱を握っているのはもちろんクロウ。

私は行きとは打って変わって、おとなしく後ろにまたがっていた。


喋れることなんてないじゃない。


私はそんなことを考えながら、移り変わる景色を眺めていた。


流石にそんな私に気を使ったのだろう。



「あのさ、家が見つかっただけでも前進だと思うよ。まだ一年あるんだし気を落とさなくでも……」



クロウが私にそう声をかけてきた。



「何よ、珍しく心配してくれてるの?らしくないわね。」



「今の君の方がらしくないよ」



そういうと、クロウはひとまず口を閉ざした。


まぁ、こうやってわがまま聞いてくれるのも、送り迎えしてくれるのも、元気出そうと励ましてくれるのも、きっと彼の中に罪悪感があるからだ。


行きの道の中で、彼が謝罪したことと、今のなんと声をかけていいのかわからない中、無理やり声をかけてくれている彼の様子を見ると、多分間違いないだろう。


やだなぁ、確かにちょっと責めはしたけど、所詮は結果論でしかない。

そもそも呪いをかけようとした、魔女や黒幕が悪いんだから、そこまで気にする必要もないのに……


あぁ、でもそうか、私が落ち込んでるから、余計に気にさせるのかしら。


らしくない……かぁ。


まぁ、確かに、予想してた場所にいなかったくらいで悩みすぎてはいるのかもしれないわね。


私のわがままで送り迎えをしてくれているのに、クロウに悪いかしら。


どうせ、今考えてもどうにもならないしね……なら悩んでても仕方ないかしら。


今日会えると思っていたのに、会えなかったことや、作者だしロベリアの居場所わかるし、呪いの解き方がすぐにわかる、一年も時間をかけることはない。

なんて期待と驕りが大きすぎて、クロウの言うとおり、らしくもなく落ち込んじゃったわね。


死ぬことへの悔しさは、どうしても拭えないけれど、とりあえず別のことで一瞬気を紛らわせるのが一番かしら。


そう思っていると、ふわりといい匂いがした。


何かを焼いている匂いだ。


ふと街の様子を見ると、いつの間にか市場に出ていたらしい。

と言うことは、食べ物を売っている出店があると言うこと。


私は軽くクロウの背中を叩く。



「ねえクロウ」



「何」



「正気を養うのに、食べることって大事だと思わない?」



「なんの話?」



「私、一週間もパン粥しか食べてないのよね」



私がそういうと、クロウはククッと喉を鳴らして小さく笑った。

だから私はクロウの背中をは軽くこづいて訴える



「なんで笑うのよ」



「何か食べたいなら、もっとストレートに言ってほしいな」



「いいじゃない、どんな言い方したって」



「まぁいいけど?何か食べてる暇もないんじゃない?不在なのリイナにバレてると思うよ」



「対処法が見つかるまで、どうせまた神殿から出られないのよ?ちょっとくらいなんか食べたいわよ」



「なんかって言われても……」



クロウは首を伸ばすようにして、出店の方を見る。

何があるのか確認をしているようだ。


多分、食べたいものが売っている店の前で馬を止めようとしているのだろう。


そして、ようやくめぼしいものを見つけたのだろう、こんな提案をしてきた。



「だったらあれは?りんご飴」



令嬢らしい可愛らしいチョイス。

しかし、別に可愛いものは求めていない、それに……



「うさぎ型のリンゴはもう死ぬほど食べた。」



「えー……じゃあ、スコーンとかマフィンは?」



今度はその近くで売っている焼き菓子の店をクロウは指差すけれど、私は首を横に振った。



「別に炭水化物が食べたいわけじゃない」



「わがままは健在だね」



さっきまで心配してくれていた彼はどこへやら、肩を竦めて呆れながらこう聞いた。



「じゃあ何が食べたいわけ?」



「肉」



私も間髪入れずに答える。

その答えに、クロウがガクッと体制を崩したのを私は見逃さない。



「せめてもうちょっと令嬢らしいものねだってよ」



「やーよ、この肉の焼ける香ばしい香り嗅いだら、我慢できないわ。」



「サヨウデスカ。」



クロウはもう一度で店の方を見ると、肉が売っていそうな店を探した。



「近くだと……ホットドックかチキンならすぐそこで売ってるよ?」



「チキン」



「だから……もういいや。チキンね。」



何かを言おうとしたクロウは、何かを諦め、すべての要望を受け入れることにした。



ふん、選択肢に資金を入れた自分が悪いのよ。



私が勝ち誇ったような表情を浮かべたちょうどその時、クロウはチキンを売ってる店のそばに馬を止めるのだった。

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