第30話 閉じ込めた相手
「戻りました」
「話は終わりましたか?」
菅原と昭道がトイレから帰ってきたが、不二三以外はお通夜のような雰囲気で、昭道は困ったように雪知を見つめた。
「雰囲気が……なんか、暗いですね」
「昭道さんも立川さんがいじめられていることを知っていましたよね」
「え?」
「さっき、もう話して大丈夫って立川さんに言ってましたよね?それって、もう近藤さんが死んだからいじめる人がいないからって意味でしょう?」
「おい、不二三!」
「……」
雪知が止めたが、昭道は黙って先ほど座っていた伊藤の隣の席に腰かけた。
「ええ、知ってましたよ。たまに閉じ込められたまま忘れられてしまっている立川さんを姉さんと一緒に出してあげたりしていました」
「……」
立川は何も答えず俯いた。
「でも先輩だったし、いじめをやめてくださいとは言えませんでした。情けない限りです」
樫杉は、悲しそうな顔で昭道を見つめた。立川も俯いて、何も言わなかった。
「菅原さんは近藤さんが立川さんをいじめていることについて何か知っていましたか?同期だったんですよね?」
不二三が問いかけると、菅原は先ほどと同じ樫杉の右隣に座って目をそらした。
「……俺はフロントと予約係なのでその辺はわからないですよ」
「嘘だ、同期は皆知っていた」
伊藤が菅原をにらみつけると、菅原は目を細めた。
「なんだよ、伊藤」
「菅原、お前は嘘ばかりついている。昭道がいなくなった今、俺はお前を疑っている」
「は?俺が昭道と近藤を殺したっていいたいのか?」
「やめなさい!2人共!」
菅原は立ち上がり、伊藤につかみかかる勢いだったのを、樫杉が止めた。
「今は、喧嘩している場合なんかじゃないはずだ」
樫杉が絞り出すようにそういって両手を組んで額に当てた。
「喧嘩している場合ではないのはそうですが、菅原さんも何か知っていたらいっておいた方がいいですよ、嘘をついているだけで犯人と疑われても困るでしょう?」
「嘘、だなんて」
不二三の念押しに、はっとしらばっくれるように笑った菅原に、雪知はだんとテーブルを叩いた。
「立川さんは何度か近藤さんに閉じ込められたと言っていました。昭道さん曰く、雪が多い日は、温泉に入っている間に樫杉さんが大きな雪用の車で寮まで送ってくれることが多いとか。フロントで2人が温泉の方へと向かうところをあなたは絶対に見ているはずだ。その後“先輩である”近藤さんだけが立川さんを残して温泉から戻ってきたら、あの立川さんの性格上、先輩である近藤さんを自分が温泉に入っていて待たせるような性格じゃないと分かるはずなのに、絶対に何か違和感を抱くはずなのに、抱かないのがおかしい」
早口で有無をいわさずそういった雪知に、菅原は何も答えることなく固まっていた。
「その通りですよ」
伊藤がぽつりと呟いて、菅原はがくんとうなだれた。
「死んだ同期の悪口なんて言いたくも聞きたくもないんですよ」
低い声で俯いた菅原を見て、雪知は菅原も同期が立て続けに死んで悲しんでいるのかもしれないと、自分の感情で嘘をついた菅原を追い詰めたことを少し後悔した。
「そんなことは皆一緒なので今度こそは嘘をつかず教えてくださいね」
「え?」
「警察に嘘をついたら虚偽罪で捕まりますよ」
雪知が後悔している横で、不二三は冷たく言い放ったのだった。
「じゃあ、樫杉さん以外は近藤さんが立川さんを閉じ込めていることを知っているということで、恐らくですが今回も近藤さんが立川さんを閉じ込めたので確定だと思います」
「はい、今日もちょっとしたことで怒られて、閉じ込められました……それからはずっと閉じ込められていて、意識を失っていたのでそれから何が起きたのか……扉が開く音で目が覚めて、近藤さんかと思ったら、座って何かを書く音がして、その後、足音がベランダへと遠ざかって行ってドンっと大きな音がしました」
「成る程……」
「外が騒がしくなったのもその後です、何があったのか怖くなって暴れても全然出れる気配がなくて、パニックになって……そこからは」
「僕が気を失っている立川さんを発見したのでそれですね」
不二三は、腕を組んで頷いた。
「皆さん、ありがとうございます。とりあえず今日は先ほど言った通り犯人が見つかるまでは次の殺人が起こる可能性があるため、ここで一夜を明かしていただきます」
「……部屋は開いているので、問題ありません」
樫杉は、ゆっくりと立ち上がった。
「皆が泊まれるように準備しましょう」
「はい、部屋に入ったら絶対に出ないようにお願いします」
不二三は、そういってソファを立った。
「どこに行くんだ?」
雪知が問いかけると、不二三は腕を組んで答えた。
「近藤さんたちが柊さんの幽霊を見たという場所に行く」
「俺も行く」
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