第13話 死んだはずの人間が旅館に現れていいはずがない

お部屋への案内をされ、雪知と不二三はやっとのことで部屋でゆっくりできることになった。

 部屋は12畳くらいある広い部屋に、大きな木の四角テーブルと、座布団。それから隅には布団があり、ベランダには木の机と椅子が2つ。一般的な和の旅館といった感じの部屋だった。


 座布団の上に腰を下ろして、雪知は腕を組んだ。

 雪知は、樫杉に対する自分の発言に少し罪悪感を抱いていた。自分の旅館のお客様が、自分の従業員の死を利用して幽霊事件を起こしているなんて、番頭さんは思いたくないだろう。ましてや、幽霊事件でやめていった従業員もいる中で、その旅館に残ってくれた従業員たちを疑うことだって、樫杉はしたくないはずだ。


 もしかしたら、樫杉は幽霊であってくれと思っているのかもしれない。人間の悪意なんかではなく、突然現れた柊の幽霊であれと。


「不二三は、幽霊だと思うか?」

「いや、まさか、馬鹿な」


 ふっと笑う不二三に、雪知はでも、と続けた。


「ここの従業員が柊さんの行方不明事件を使って幽霊事件を起こしているという理由が理解できない、そんなことをすることに何の意味があるのかわからない」


「優しいよね、雪知君は」

 不二三は、目を細めてテーブルの上で両手をあわせた。


「人間なんてものはね、お腹がすいてたからむしゃくしゃして突発的にホームレスを撲殺したり、自分より美しいからって理由で妹を焼き殺したり、この世は理不尽で常人には理解できないことが溢れているんだよ。そんな中で、犯罪者に寄り添って「どうしてそんな風に考えちゃうんだろう」なんて考えたって無駄だよ。人を殺すのに理由がある人も、殺してみたくて殺してみたような人もいるんだから、理解なんてできないよ」


「……」


 雪知は、たまに不二三は人間ではないのかもしれないと考えることがある。いいや、そもそも不死身の時点で確かに確実に、不二三は「普通の」人間ではないのかもしれないということは確かではあるのだが、いつも雪知の後ろでおどおどしていて、樫杉さんを励ましているような人間らしい不二三と、今みたいに流暢に、人間と自分を別として見て、第三者から客観的にまず最初に「人間なんてものはね」と言われてしまうと、どこか自分の大事な親友が正面にいて、今自分と話している親友が、遥か空の上の方から神様のように語りかけているような不安が心に渦巻いてくる。


「そもそもだね、死んだはずの人間が旅館に現れていいわけないんですよ」

「そうだな……ははっ……」


 急に冗談モードに入った不二三に、


「いや、お前が言うな」


 少し遅れて、雪知は突っ込みを入れたのだった。

 しばらく他愛のない話をして、夕食までの時間をつぶした2人は、19時5分前にレストランへと足を運んだ。


「梨恵ちゃん、早く!」

 扉の奥から男性の声がする。人が何人かやめたと言っていたし、大変なのかもしれない。


 レストランは、一階の一番奥にあり、雪知と不二三は階段を下りてレストランへと向かった。レストランの前には、レストラン 雪桜という飛騨檜のプレートがかかっており、木の引き戸をがらりと開けると、黄色の着物に紺色のエプロンを腰に身に着けた女性がニコニコして立っていた。

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