第35話 一緒に来てくれ

「ここですか」


 不二三は、昭道に案内されてレストランの備品庫に来ていた。


蛍光灯の灯りが救いだというくらい、寒くて不安になる場所だった。ここで閉じ込められるというのはどれほどの恐怖なのだろう。


扉を開けてもらって、密閉じゃない状態で、不二三はやっと中に入れた。


レストランの備品庫といっても、中にあるのはレストランのお品書きや、子供がレストランで使う椅子などの備品や、新しい制服、エプロンなどが段ボールの中に入れられて積まれていた。


「寒いですね」

「ええ、ここは暖房も何もないので」


 倉庫をうろうろしていると、不二三は段ボールの下にあることに気づいた。


「床下があるんですか?」


「ああ、段ボールが積まれていて基本的に使っていないですけどね」


「……柊さんが行方不明になった時、この中にいたとかは考えられますかね?」


「……」


 昭道は、目を大きく見開いた。


「怖すぎますよ、そんな……なんですか、急に」


「いいえ、なんでも」


 昭道は、変な生き物でも見るような眼で不二三を見つめた。


「ボールペンとメモ用紙は、常にレストランの人は持ち歩いている感じなんでしょうか?」


 不二三が、浴室で見つけたボールペンを差し出すと、昭道はじっとボールペンを見て目を見開いた。


「これ、姉さんのですか?」

「ええ」

「どこに?」


「遺体の着物の中から見つかりました」


 不二三がそういうと、昭道は眉をひそめて俯いた。


「ところで、先ほどの質問ですが」


「え?ああ、ボールペンとメモ用紙は常に持ち歩いているのか?でしたっけ?ええ、そうですね。基本的にエプロンにいれてますが、着物の衿にペンを挟んでいる人もいます」


「成る程」


 何が言いたいのだろうかといった様子で不二三を見つめる昭道に、不二三はしゃがんで床下のある床をなでながら目を閉じた。5秒くらい動かなかった不二三だったが、目を見開くと、すくっと立ち上がった。


「ありがとうございました、昭道さん、203号室でしたよね。危ないので部屋から出ずに過ごしてくださいね」


「え?あ、はい」


 レストランから出た後、階段から上がってきた雪知が不二三の方に駆けてきた。


「不二三!」


「雪知君」


 雪知は、不二三に駆け寄ると不二三の手を取った。


「伊藤さんが重要なことを話してくれたんだ」


「そうか、僕も彼には話を聞かないとと思っていたんだ。でも、きっと僕じゃ話してくれそうにないだろうし、立川さんに呼んできてもらっておいてよかった」


「は?」


 雪知は、微笑んでいる不二三の顔を見つめた。


「伊藤さんを休憩室に呼んできてと伝えておいたんだ。雪知は僕より先に部屋に行って休んだりいないだろうから、休憩室にいると思って。話を聞いてくれてありがとう」


「お前、俺と伊藤さんを会わせて会話させるように仕組んだのか」


「いや、仕組んだなんて」


 にこっとほほ笑んだ不二三を睨んだ雪知の頬は緩んでいた。部屋に戻ってお互いの情報を交換すると、不二三は顎に手を当てて目を閉じた。


「成る程……」


「どうだ?不二三」


「……雪知君を頼ってよかったよ。僕じゃその話は聞けなかっただろう」


「え?」


「君だから、伊藤さんは心を開いて話をしてくれたんだ。君のおかげで点と点は、線になって繋がった」


「じゃあ……」


 不二三は、ゆっくりと立ち上がった。


「僕を殺した犯人及び、一連の殺人事件。そして、柊ゆらぎさんの行方不明事件。幽霊事件も、全て繋がっていたんだ。僕はこれから犯人のところに行ってくる」


「俺も行く」


 雪知はすぐに立ち上がった。不二三は、雪知を見つめた。


「ああ、一緒に来てくれ」


 危ないからと断られるだろうかと思った雪知だったが、杞憂だったようだ。

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