第39話 焼死はこりごりだ

次の日、雪がおさまり警察が到着した。


「そちらの探偵さんが、事件を解決してくださったようで!感謝いたします!」


「……」

「えっと?」


「すみません!彼は人見知りでして!」


 事件を解決した不二三は、元のコミュ障探偵に戻ってしまったようで雪知の後ろで隠れていた。


「昭道君……!!」


 昭道が逮捕される際に、杖をついた老人が足を引きずりながらふらふらと走ってきて昭道にしがみついた。


「すまない……すまない!私は、私は……真相を全部知っていたのに」


「柴咲さんです」


 後ろで見ていた樫杉が、力のない瞳でそういった。


「いいんですよ、柴咲さん。あの手紙も、柴咲さんが倉庫で段ボールの中から見つけて、僕にこっそり送ってくれなければ、僕は真相を知ることができなかった」


「遺書をすぐ警察に見せればよかったんだ」


「無理ですよ、床下に隠してメモをを見つけたあなたは、菅原か、近藤のどちらかから、階段から突き落とされてメモと足を奪われたっていうのに。入院しながらも、手紙を俺に送ってくれただけで僕は感謝していますよ」


「……すまない……!すまない……こんなことになって」


 柴咲は、滝のように涙を流しながら昭道にしがみついていた。反対に、菅原には誰も声をかけることはなかった。


「気絶した私を、休憩室に運んでくれたの、昭道君だよね?たびたび、閉じ込められた私をいつも見つけてくれたよね?」


 しゃくりあげる立川に、昭道は悲し気に目を伏せた。


「ごめんねっ、あっ、わたし、何もできなくて」


「別にいいよ、立川さん元気でね」


 伊藤は、パトカーが来る前に泣きながら「君にこんなことをさせて悪かった」と謝っていた。樫杉と谷口も、涙を流しながら銀世界を走るパトカーを見送った。


 木々から桜のように振る花弁雪が、不二三の前を通り過ぎた。柊ゆらぎは、どんな思いで手紙を残したのだろう。


不二三が102号室に向かうとき、確かに昭道は、『探偵さん!』と叫んだ。きっと彼は、不二三が探偵だということを菅原同様事前に調べ、柊ゆらぎの行方不明事件の真相に導こうとしていたのかもしれない。


「東京に帰ろうか」


「そうだな、寒いのはもうこりごりだ」

「熱いのは?」


「焼死もこりごり」


 はははと笑った雪知は、不二三と肩を並べて樫杉が用意したバスへと向かった。

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不死身探偵 不ニ三士郎 ガイア @kaname0109

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