第22話 ひよこちゃんより、速いのね

 重たい瞼を開くと知ってる天井だった。

 あたしはこの部屋を知ってる。

 何度も遊びに来たことがあった。

 忘れるもんですか。

 あたしはここに来たかったんだから。


 身体を動かそうとしたら、あちこちが痛い。


「おや。お嬢様。目が覚めましたかな?」


 このちょっとしわがれた特徴のある声。

 確かに知ってる。


 白い口髭でシャキッと背筋を逃した黒の執事服のおじいちゃん。

 見間違えるはずない。

 セバスセバスチアーンさんだ。


 安心したからだと思う。

 あたしの瞼は再び、重くなっていって、目の前が真っ暗になった。




 それから、どれくらいの時間が経ったのか分からないけど、目が覚めると痛みが和らいでいた。

 どうして痛くないのか。

 理由はまるで分かんない。

 癒しの魔法が使える人はあまり、いないって聞いたことがある。


 だから、簡単な癒しの魔法が使えただけで聖女様になったなんて話があるらしい。

 これがおとぎ話ではなく、実話なんだから。


 来ようと思っていた場所に着いていた。

 どうなることかと思っていただけに気分も落ち着いた気がする。


 ここで頭の中を少し、整理すべきかしら?

 あたしは考えるのが苦手だから、うまく整理が出来るのかは分かんないけど。


 確か、エヴァエヴェリーナを連れて、屋敷を出た。

 そう。

 あたしの絵でエヴァの身代わり人形を作った。

 それで二階からの脱出手段として、あひるちゃんを描いた!


 あたし渾身の作・あひるちゃん一号にエヴァったら、酷いのだ。

 なぜか半目で半信半疑といった態度を取ったけど、何がいけないのか。

 あひるちゃんだよ?


 あたしが筆を走らせて描いたモノは出来るったら、出来るんだから。

 その証拠に原理は分かんないけど、小さな翼なのにちゃんと空を飛べた。

 羽ばたきする音もしないし、ふわっという感じで浮いて、ふわふわと飛行している感じだ。

 それでも飛んでる。


「ひよこちゃんより、速いのね」

「え? ひよこは空飛べるの?」

「知らないけど?」


 エヴァもほとんど寝ていたからか、たまによく分かんないことを言う。

 でも、楽しい空の旅になるはずだった……。


 おかしい。

 徐々に体から、力が抜けていく。

 気のせいじゃない。

 油断したら、意識がなくなりそうだから、我慢してたけどそれにも限界がある。


「エミー、大丈夫なの? 顔色が悪いわ」

「大丈夫。多分、大丈夫」


 歯を食いしばって、耐えていたけど、そろそろ限界だった。

 どうにか、ヴィシェフラドの郊外にまで来られたのだ。

 あと、もうちょっとだったのに……。


 気が付いた時にはあひるちゃん一号が消えていた。

 あたしとエヴァの身体は宙に投げ出されて、落ちるのを待つだけだ。


 エヴァだけはどうにかして、助けたかったから、彼女の身体を抱きかかえて、落ちた。

 せめて、エヴァだけでも助かればいいなぁ。

 そんなことを考えていたら、ぶつかったのは固い地面じゃなくて、何だか優しくて、軟らかなものだった。


 落下死なのに案外、痛くないんだ。

 変なことを考えながら、意識を手放した。


 そうよね。

 確か、こんな感じでだいたい合っているはず!


 じゃあ、今、あたしがいるのはおじい様コンラート前国王陛下のお屋敷ってこと?

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