第15話 昔のことを思い出したって、意味ないわ

 あまりにもバタバタとしてたから、すっかり忘れてた。


 明日から、学園は冬期休暇に入ってしまう。

 以前のあたしだったら、学校が休みなのが嬉しいから、「わぁ~い」と必要以上に喜んでたところだけど、そうも言ってられない。


 エヴァのこともある。

 毒を盛っている人間がまだ、家の中にいて何を考えているのか、分かんないのが怖い。


 何が目的なの?

 何がしたいの?


 ビカン先生はあたしの家の血について、よく知っている人間が犯人としか思えないとも言ってた。

 竜や聖女の血が影響してるのかしら?

 難しくて、分かんない。


「あの……ネドヴェト令嬢」


 考えれば、考えるほどに霧の中に迷い込んだみたいで頭が真っ白になった。

 元々、考えるのが得意ではないのだ。


 そんなあたしを現実へと戻してくれたのが、クラスメイトの子だった。

 第一印象は誰か、分かんない。

 それもそうだろうとは思う。

 あたしにとって、学園はロビーに堂々と会える場所に過ぎなかった。

 そういう認識だったから、クラスメイトの顔は知らないのだ。


「ポボルスキー伯爵家のサーラと申しましゅ。ます!」


 言い直した。

 噛んだのを何事もなかったような顔をして!

 それでいて、顔は熟れたトマートのように真っ赤になってる。

 分かりやすい子。


「それでポボルスキー令嬢。何の御用でしょうか?」


 この子はだと思う。

 思うけど、気になるのは彼女の家がポボルスキーということ。


 宰相がドゥシャン・ポボルスキーなのは勉強嫌いなあたしでも知ってる。

 そして、ロビーロベルトの傍にいた取り巻きの一人――ユリアンがその三男ってことも……。


 だから、警戒した方がいいのだ。


「あたちとお友達になってくだしゃい。さい!」


 また、噛んでる!

 それをごまかそうとしてるところがかわいく見えるのは、小柄で小動物ぽい見た目のせいかも。


 どうしよう?

 警戒した方がいいのは分かってる。

 でも、あたしはもう期待しないし、求めない。


 それなら、問題ないかしら?


「いいわ。友達になりましょ」

「ダメですよね、やっぱり。え!?」


 この子、面白い。

 顔が青くなったと思ったら、赤くなって、表情が豊かなのだ。

 誰かに似てると思った。

 昔、まだ優しかった頃のユナユスティーナがこんなだった。

 あの頃はあたしも小さくて、ユナも優しかったのに……。


 昔のことを思い出したって、意味ないわ。


「ホ、ホ、ホントにいいんでしゅか? ですか?」

「うん」




 友達になったサーラはあたしのことを心配して、声をかけたと正直に話してくれた。

 そこに兄であるユリアン・ポボルスキーのアドバイスがあったことを隠そうともしない。

 この子は嘘もつけないし、演技も出来ないんだと思う。


 彼女と話してると楽しくて、あっという間に日程が終わってた。

 友達がいるとこんなものなんだろうか。

 不思議な気持ち。


 ビカン先生に途中経過を報告してから、帰りの馬車に乗った。

 沈黙してる方が価値があるなんて、嘘だと思う。

 馬車での沈黙してる時間はあたしにとって、何の意味もないんだから。

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