第48話 そのまま逃げるなんて、許さないんだから
「我々にはもう時間が残されていないようだ」
おじい様がふと窓に目をやった。
あたしも釣られて、視線を向けたけど、見なければよかったと後悔した。
お日様が出ていた。
燦々と輝く太陽の光で眩しいくらいに明るかった空が、
お日様が落ちる時間はまだまだなのに……。
「じー様。もう迷っている時間はない。俺は動く。かまわんよな?」
誰もが言葉を失くしている中、勢いよく、立ち上がったのはトムさんだ。
座っていても大きい人のように見えたけど、立ったらまるで壁みたい。
収縮色の黒に塗られた甲冑を着ていても分かってしまうのっぽさん。
ノッポはヴィシェフラドの遥か北にある小さな村の名前らしい。
そこの住民がとにかく背が高くて、有名だったから背が高い人はのっぽと呼ぶようになったそうだ。
口喧嘩になった時、嫌味を交えながら、言ってた……。
何でこんな時にユナのことを思い出したのか、不思議だけど。
「
「ああ。分かっているさ。俺のところの兵は優秀だからな。問題ない」
おじい様の言葉を受けたトムさんはマントを翻しながら、颯爽と部屋を出て行った。
ちょっとかっこいいと思ってしまった。
その目はずっと、トムさんを追っているって、気付いてるのかしら?
トムさんが部屋を出ていってから、窓の外はどんどん暗くなっていく。
みんなの顔からも明るさが消えていく感じがして、嫌だ……。
そんな空気を払うようにおじい様が、淡々と言葉を繋いでどうやって、日蝕を乗り切るのかと説明してくれた。
ほとんど頭に入ってこない。
あたしが馬鹿だから、理解が出来ないのもあると思う。
だけど、それだけじゃない。
理解したくないと心が拒否しちゃってるんだ。
お母様は倒れたみたい。
命に別状はないみたいだけど、安心出来るような状態でもないって、
お母様のことは心配。
でも、それ以上に気にかかるのがユナのことだった。
ユナが……あのドレス嫌いのユナが……裾の長いドレスを着ている。
セバスさんは確かにそう言った。
夜の闇を纏ったような漆黒のドレスは色こそ、違うけど神に仕える巫女の着る物によく似ているとも。
日蝕と巫女。
巫女はその命を捧げることで光を世界に取り戻す。
おじい様はそんなことを言ってた気がする。
ユナが巫女の恰好をしてる。
それが何を意味するのか、馬鹿なあたしでも想像が出来る。
死ぬ気だ……。
そんなの許さない。
言いたいことだけ言って、そのまま逃げるなんて、許さないんだから。
また、彼女と言いたいことを言い合って。
それで笑い合う未来が来ないかもしれないなんて。
絶対に嫌だ。
トムさんが戻ってきたのはそれから、小一時間後だった。
彼の黒い甲冑のあちこちに紫色の奇妙な血が飛び散っている。
何があったのかは何となく、分かってしまった。
あたし達の屋敷で何かがあったのだ。
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