第23話 あたしはここに来なければ、いけなかった
コンラート前国王陛下は
おおおじ様は言いにくい。
舌を噛みそうになったら、おじい様が笑いながら「おじい様でかまわんよ」と言ってくれた。
おじい様は真っ白で長いお髭の優しそうな見た目通り、とても優しい人なのだ。
だから、あたしはここに来なければ、いけなかった。
「セバスさん、エヴァは?」
「ああ。心配なさる必……」
「大丈夫よ、
「大丈夫です」
セバスさんはトレードマークの口髭をいじりながら、答えてくれようとしたのにかぶせてきたのはポボルスキーの兄妹だ。
サーラの声はちょっと甲高いので眠気覚ましに丁度、いいけど。
なぜ、この二人がおじい様の離宮にいるのか。
その方が気になってしまう。
ユリアン・ポボルスキーが
だって、離宮なんだし……。
「……ということでございます」
さすが、マスター・バトラーのセバスさん。
ユリアンとサーラは二人同時に喋ろうとするから、変なハーモニーを聞かされてるみたいで分かりにくかった。
その点、セバスさんは理路整然とした喋り方といい、落ち着き払ったしゃがれ声といい、眠くなってくるくらいにバッチリだ!
「それで助けてくれた
あたしの言葉に三人とも複雑な顔をしてる。
この離宮はロビーの家であって、家長であるおじい様が不在なら、ロビーが代わりを務めるんだと思う。
それなら、顔を見せるのが普通じゃないの?
これまでのような近い幼馴染の距離感をやめようと提案したからって、顔も見せないのはさすがに酷い気がする。
「そうですな。セバスめにお任せあれ」
ニッと口角を僅かに上げて、悪戯っ子のような顔をしたセバスさんが部屋を出ていった。
さすが、マスター・バトラー。
動きに無駄が無くて、エレガントでスマートなのだ。
小さい頃、マスター・バトラーが何なのかと聞いたことがある。
「ましゅたーばとりゃーって、にゃに?」と聞いたら、「東西南北全てにおいて、最高の執事ということですな」と訳の分かんない答えが返ってきた。
セバスさんもそれが分かったのか、「つまり、
あたしの中で今でも疑問ととして残っている……。
「もう少し、詳しく説明してもらえるかしら? あまり頭がよくないので、分かんないの」
そう言った意味がサーラにも分かってもらえたんだろう。
彼女も隣にいる自分の兄を横目で窺ってる。
サーラは兄妹だから、ずっと被害を受けてきたに違いない。
頭がいい人によくあることだけど、自分は分かってるので相手も分かってると勘違いして、ペラペラと喋るのだ。
ユリアンは悪気なく、そうしてる。
話の半分以上、あたしとサーラが理解出来ていないとは考えもしていないんだろう。
「わ、わかりました。分かりやすく、ですね」
あたしもユリアンのことを勘違いしてたみたい。
小説の中で成長して、青年になった彼が眼鏡をかけていて、冷徹なやり手の政治家になってたものだから、目の前の彼もそういう性格なのだと思い込んでいただけなのだ。
実際に接してみると分かりやすくて、気遣いが出来る優しい性格に思えた。
サーラへの態度も微笑ましいものがあって、ホントに仲の良い兄妹に見える。
ただ、彼は手加減という単語を辞書に登録すべきじゃないかしら?
あたしは確かに
言ったけど、小さな子に読み聞かせるような言い方はさすがにきつかった……。
分かりやすくはあったけど、一応、十二歳だってことは考えて欲しいわ。
「ポボルスキー伯爵令息の説明はとても、分かりやすかったです」
「そ、それは良かったです」
さりげなく嫌味を言ったつもりなのに普通に受け取って、にへらと微笑むユリアンの様子を見るとそれほど、警戒する必要もないし、悪い人ではなさそうだ。
サーラはあたしよりも耐性がないのか、器用に座ったまま、うつらうつらとしてるのでそっとしておくとして。
分かったことをまとめてみた。
あたしの描く絵を具現化させる特殊な魔法にはどうやら、制限がある。
静物の具現化は比較的自由らしい。
魔法の一種だから、体内の魔力を消費するのは同じだけど、そこに一定のルールがあるようなのだ。
静物は絵から具現化する際に魔力を消費したら、それきり。
いわゆる使い切りで消費するのはその時だけ。
だから、エヴァの身代わり人形も動かない物=静物として、認識された。
あたしが部屋で暇つぶしに描いて、具現化した蝶々は静物ではない。
動く物なので実は具現化から、動かしてる間、ずっと魔力を消費するものだったようだ。
蝶々が小さいので消費魔力が少なかったから、感じなかっただけ。
あひるちゃん一号は二人乗っても大丈夫な大きさでおまけに空を飛ぶという動く物だ。
常に具現化し続ける魔力を供給するのがあたしの魔力だけだったから、当然のように無理がきた。
それで消えちゃった訳だ。
落ちて、地面とキスするしかないあたしとエヴァを助けてくれたのが偶々、目撃して馬車を走らせてくれたロビー達だった。
ロビーは風の魔法をクッションのように展開させて、落下の衝撃を和らげてくれたので命の恩人なのだ。
そして、一番、驚いたのは癒しの魔法をかけてくれたのがサーラだったということ。
「あたちの魔法なんて、よわよわだから」と謙遜してるけど、微弱な癒しの魔法でもスゴイことだと思う。
「よし。待ってるよりも直接、言ってくるわ」
「ええ!? ち、ちょっとお待ちください」
あたしを止めようとするユリアンだけど、うつらうつらどころか、既に夢の中にいるらしいサーラが寄りかかってるので動けないから、今がチャンスだろう。
ユリアンはかなり焦っているようだけど、そんな声を聞こえない振りをする。
部屋を出ようと扉に手をかけ、勢いよく開けるとなぜか、そこには硬直してるロビーの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます