第2話 どうか、あたしを殺してください

 あたしはそれから、何の授業を受けたんだろう。

 どうやって帰ったんだろう。

 全く、記憶にない。


 食事をとる気にもならなかった。

 食欲なんてないもん。

 夕食の席も断って、そのまま部屋に戻った。


 不思議なのは断った時のお母様の顔だ。

 なぜかは分からないけど、顔が青褪めてた。

 何か、ショックを受けることでもあったのかな?


 エヴァエヴェリーナのことだろうか?

 あの子は体が弱いから。

 きっとそうに違いない。

 エヴァは優しくて、皆に愛されているから。

 あたしと違って。


 あたしが夕食を断ったから?

 それはない。

 誰もあたしのことなんて、気にも留めてないんだ。


 あたしが何をしようが、どうなろうが、誰も気にしてない。

 愛されてないんだから!


 愛されてないから、誰かに愛して欲しかった。

 振り向いて欲しかった。

 愛されようと精一杯、頑張ったつもりだった。

 だけど、もう疲れちゃった……。


 窓を開けると夜風が入ってきて、肌寒く感じる。

 夜着が薄着のせいもあるんだろう。

 あまりにも勢いよく、開けたせいで危かった。

 

 痛いのはイヤよ……。


「あれ? 流れ星かな?」


 夜空で一際、眩く輝きを放つお星様が見えた。




 そんなそそっかしいあたしを心配してくれるんだろうか。

 お空には三日月が顔を覗かせていた。

 お月様とお星様に願いを掛けた。


「女神様。どうか、


 こんなあたしにも平等に銀色の優しい光を投げかけてくれるお月様だもん。

 もしかしたら、願いを聞き届けてくれるかもしれない。


 単なる気休めに過ぎなくてもそれに縋りたい。

 それくらいに疲れちゃったの。




 あたしはいつの間にか、夢の世界に旅立っていたらしい。


 月の光を思わせる優しく、煌きを見せる髪は白金色をしている。

 長い髪が風に靡いていて、スゴクきれい。

 マリーよりもきれいかもしれない女の子があたしを見つめていた。


 目はルビーのように輝いて、キラキラとした彩りを見せている。

 猫みたいな目があたしに向けられていて、ドキドキしてくるのはなぜだろう。


「本当にそれでいいの?」


 声は聞こえないけど、彼女の唇は確かにそう紡いでいるように見えた。


「はい。女神様。お願いします」


 迷わず、答えた。

 もう疲れちゃった。

 愛されないのにこれ以上、何をすればいいのか、分かんない。

 だから、もういいの。


「そう。じゃあ、あなたにとっておきの魔法をかけてあげるわ」


 少女――の唇が弧を描いた。

 あたしもあんな風に笑いたい。

 愛されたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る