第45話 心のむこうに
(ユスティーナ視点)
「
「ああ。可哀想なユスティーナ」
叔母様はそう言うとわたしを抱き寄せた。
まるで幼子をあやすようで心がむずがゆく感じるのに満たされるような不思議な感覚に全てを忘れそうになる。
長かった戦争がようやく終わった。
叔母様は事もなげに言った。
彼女にとってお兄様は目に入れても痛くない存在だった。
姪であるわたし達にも惜しみなく、愛を与えてくれた叔母様だ。
自分の家族である叔父様とお兄様を失った悲しみがどれほどに深いものか、わたしには図りようがない。
それなのにわたしのことを気にかけてくれる叔母様の愛を確かに感じる。
わたしにとって、お父様は特別な存在だ。
お父様が戦場に旅立ったのは随分と昔のことのように思い出される。
お母様は「お父様は立派な人なの。弱い人々を救うべく戦いに行かれるのだから」とまだ、小さかった
お母様は震えていたから、泣いている顔をわたし達に見せて、不安にさせないように考えてくれたのだろう。
別れの際にお父様は「
だから、それがわたしの全てになった。
お父様がいない間、お母様とマリーを守らなくてはいけない。
わたしがお父様の代わりになる。
そう決めたのだ。
わたしは元々、頑固な性格だった。
こうと決めたら、絶対に譲らない。
誰に何を言われようとどう思われようともかまわない。
女で騎士になれるものかと笑われ、揶揄われもしたが負けるものかと歯を食いしばって、耐えた。
わたしはわたしの信じる道をただ、進むだけ。
お父様との約束。
愛する家族を守るのはわたししか、いないのだから。
そう思っていた。
わたしの夢を応援してくれたのは
叔母様が「ユナが信じる道を進むといいわ」と背中を押してくれたからだ。
戦争が終わったのにお父様は帰ってこない。
お母様はその報せを聞いて、卒倒してから目を覚ましていない。
張りつめていた糸が切れたようにやつれて、寝込んでいる姿を見ると涙がにじんでくる。
マリーも帰ってこない。
誰もいない。
「大丈夫よ。ユナ。あなたは強い子よ。ワタシには分かる。ワタシを信じて」
「はい。叔母様」
「そう。ワタシと一緒に行きましょう。あなたの願いですもの。きっと叶うわ」
心が黒く、淀んでいく。
黒雲に遮られて、太陽が翳っていくようにわたしの心が死んでいく。
そんなわたしに光を感じさせてくれるのは叔母様だけだ。
待っていてください、お母様。
叔母様と一緒にお父様を迎えに行ってきます。
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