第8話-辺境の地ルベルジュ

国王にイングリス行きを相談してから二週間、討伐も昨日で落ち着き、僕は兼ねてより志願していた、イングリス皇太子の結婚式に出席するため、王都騎士団から二人の騎士を指名し、いつも身の回りの世話をしてくれる専属執事を連れて、王都を出発していた。


王都から国境までは丸一日かかり、国境を守るルベルジュ領で一泊する。そこから国境を越えればすぐにイングリスだ。


雪の心配もしていたのだが、まだ冬季に入っ間もないため雪はチラつくが積もるほどではなかったのは幸いだった。


予定通り夕方にはルベルジュ領主の屋敷に訪れる事ができた。

事前に領主とは手紙でのやり取りをしていたため、玄関先で領主夫妻が出迎えてくれた。


馬車を降りて、迎えてくれた二人に向き直る。

「ようこそお越しくださいました。クリストファー殿下。」

夫妻が深々と頭を下げると、僕は困ったように笑う。

「堅苦しい挨拶は抜きで。ジルベール殿、コレット夫人、急な申し出を受け入れてくださり感謝します。」


コレット夫人は微笑み、ジルベール殿が返事を返してくれる。

「とんでもございません。殿下は今夜は街で過ごされるのですね?」


ジルベール殿には手紙の内で王都より栄えていると聞くルベルジュの街を視察したいと知らせていた。


僕は視察の前に身分を隠してその街の暮らしぶりを体感する。その後に正式に視察に来る、という風にしていた。


今夜はルベルジュの街を見て回る予定だ。

「はい。あまり遅くならないよう帰ります。無理を言って申し訳ない。」

「お気にならず、いってらっしゃいませ。」


かくして、僕は従者たちを屋敷に残して、民衆服に着替え、夜の街へと繰り出したのだった。

今夜は屋敷に一泊し、早朝出発するため、あまり街に長居はできない。


「酒場がいいな。一番話が聞けるし。」

今日は長旅で正直眠い。酒場で夕食にして早めに屋敷に帰ろう。

「お、酒場か。いいな。この辺の名物はニクジャガっていう食いもんらしいぞ。」

いつの間にやら民衆服を着て変装したヤトが横に並んで歩いていた。 

「へぇ、……ってなんで居るの?待機っていったよね?」

訝しげにヤトを見るが、どこ吹く風といった様子だ。

「お前のお守りも仕事のうちだからな!まぁ気にすんな。いこーぜ!ニクジャガ!」

ニシシと笑うヤトに、酔っ払いのように肩を組まれ、僕は苦笑した。

「はいはい。」

お守りね、監視の間違いだろ。


俺は、そんな言葉を飲み込んで街までの道のりを歩いた。

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