第33話-拘束

国境を隔てるのは天然の防壁である険しい山々だ。

両国を繋ぐ道は渓谷に整備された街道のみであり、切り立った崖ばかりの山を越えて国境を越えるのは自殺行為と言えた。この山脈があるお陰で、余程の事がない限り戦は起こらない。


月明かりの中、畑や山林を走り切り黒馬はフーフーと荒く呼吸をしている。月はもう西の山々に隠れており、東の空はうっすらと明るくなっていた。


「すまない。あと少し頑張ってくれるか?国境は超えておきたい。」

馬の首を撫でるとブフゥと息を吐き走り続けた。



遠目からでも、篝火が焚かれた関所が見て取れる。普通なら日が登ってから門が開くのだが、待っていられないので渓谷に入り関所の砦へと続く石畳を馬で駆け門前までやってきた。

固く閉ざされた関所の城壁の上から声がかけられる。


「止まれ!!ここから先はトラスダン王国だ!国境を越えたければ午前の開門を待ち検問所を通るように!!」


大きな声に馬が驚き足踏みするが、手綱を引き落ち着かせる。

「どうどう。大大夫だ。」

僕は被っていたフードを取り顔を見せると、見張りは驚いたように俺を見た。

「クリストファー殿下!?」

「この様な時間にすまない!急用ゆえ単独で帰国したい!通して貰えないだろうか!」

「はっ!!少々お待ちください!」

そう言うと、兵士が引っ込み上で何やらワァワァと他の兵士に伝達し、また顔を出してきた。

「只今開門致します!!」

そう言うと、重い鎖が巻かれる音と共にゆっくりと重厚な落とし格子の門が開いていく。

通れる程に門が開くとトラスダン王国の領土に入り、落とし格子が閉まる音を背後に聞きながら馬を降りる。 

篝火が要塞内部を照らし、前方から数人の人影がこちらにやってくるのが見えた。


ルベルジュ領主のマルク・ジルベール・ルベルジュ辺境伯と、その部下の騎士数名だ。

開門を急かして申し訳ない事をしたなと思いながら、なるべく焦る姿を見せずゆっくりと領主を待つ。 

「クリストファー様、お帰りなさいませ。」

会釈する領主達に楽にして欲しいと、会釈を辞めるよう手で遮る。

「畏まらなくていい。夜明け前に申し訳なかった。」

「とんでもございません。イングリスで何か問題でも?」

「……イングリスは問題なかったよ。ただ、我が国で不可解な取り締まりが起こっているみたいだね。」

「魔女狩りでございますね。」

「誰が主導してる?」

「王妃殿下が国王に進言なさったと。」

「兄上二人な何と?」

「お二人とも賛同なさっておいでです。」

僕は一瞬目を見張り、すぐに考え込む。

二人とも賛同するというのは、おかしな話だ。王妃派の第二王子が賛同するにしても。第一王子は不確かな情報で動く人ではない。

「リュシアン兄上まで賛同されているのか?真っ先に反対しそうだが……。」

経緯が見えず考え込んでいると、すっと領主が騎士達に合図を送り、取り囲まれる。

まるで僕を逃がさないようにするような対応に眉を顰めた。

「何の真似?」

領主は眉ひとつ動かす事なく僕を見つめ、そしてまた会釈した。

「国王陛下より、クリストファー殿下を帰国次第拘束せよとのご命令が下っております。御身のため大人しくご同行ください。」


たった数日母国を離れただけだと言うのに、何がどうなっているのだ。

けれど、王命ならば仕方ない。ルベルジュ領主は第一王子派であり、僕に忠誠を誓っているわけでもない。第一王子であるリュシアン兄上が賛同している以上辺境伯に僕を助けるメリットはないだろう。


僕は諦めたように領主を見た。

「わかった。付いて行くから、拘束理由だけは教えて貰えるだろうか?」

「……。」

しかし領主は厳しい顔をするばかりで沈黙で返してくる。

「それも言えないと?」

「申し訳ございません。」

丁寧に会釈をされ溜息を漏らす。話せば僕が逆上するかもしれないと思っているのかもしれない。

理不尽な内容なのか?まぁ、魔女狩りのタイミングで捕縛されるのなら関係者と思われているのだろう。

あながち間違いでもないけれど。


「そう。なら仕方ない。行こうか。」

騎士達に囲まれ僕は大人しく彼らに付いて歩いて行った。


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空気な王子は恋愛作家に恋をする。 pasuta @pasuta58

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