第14話-散歩
あまり遠くに行くと、帰ってくるのも遅くなる。
という事で、中庭に狙いを定めてあちこち歩き、出会う使用人に場所を聞いてはまた探しを繰り返した。
「……お、見つけた。」
渡り廊下から外に出ると、風はなく陽の光が暖かい。
一面緑の芝生のだだっ広いだけの庭、渡り廊下に沿って長椅子がある。
ただそれだけの場所だが、本を読むには丁度いい。
時計を見ると、歩くのにだいぶ時間を使ってしまっていた。ゆっくり出来ても半刻くらいかな。
長椅子に座り、空を見上げる。
あ、本を部屋に置いて来てしまった。
もう本の内容は覚えてるので頭の中で暗唱すればいいのだけど、持ってた方が落ち着く。
好きすぎだろと自分でも思うが、好きなものは好きなんだから仕方ない。
今回、旅のお供に持って来たゾエの本は僕が始めて手に取った“商人と町娘”だ。この本は去年の作品。予言だと言われた内容は、国境付近で起こったイングリスとの紛争とそれに伴う輸入品の価格噴騰だった。
我が国トラスダンもだが、イングリスにも過激な権力者が多いらしい。我が国と平和協定を結ぶとしても国王は過激派をどう処理していくのだろうか。
ウチの過激派は第二王子のアルマンが筆頭だ。
家臣はイングリスを良く思わない者も多くいる。
そんな者達を集めた組織だが、思いの大きさは様々だ。筆頭が過激思考なのでそちらに流されている感じだろう。少しでも多くイングリスの印象を良くする要因を持ち帰って、アルマンの力を削ぎたいところだ。
「はは。課題が多いのはうちも変わらないか。訪問は大きな一歩ではあるけど、先は長そうだなぁ。」
空を見あげれば、どこまでも青くがひろがっている。
あれ……何を考えてたんだっけ?
「やれやれ……僕は魔物について知りに来たんだろ。何政治に頭突っ込んでるんだよ。」
そういうのは兄上達の仕事だ。
「魔物に興味がおありなのですか?」
渡り廊下から声がしてビクリとする。振り返ると、柔らかく微笑む青年がこちらを覗き込んでいる。秋の麦の穂のような金色の髪に、青灰色の目。端正な顔立ちだ。執事や使用人ではなく貴族の青年のようで……。賓客の一人だろうか。
「我が国では、魔物についての研究があまり盛んではありません。近年、魔物の発生率が格段に下がっていまして、それが良い事なのか悪い事なのかをはっきりさせたいのです。」
青年は少し驚いたように僕を覗き込む。
「勉強熱心な方ですね。」
僕はまた背もたれに身体を預けて空を見あげる。
「健やかに生きていける国にしたいのです。」
ゾエが清々と物語を書いていける国にしたいだけ。
さらりと本の表紙を撫でようとするが、そう言えば持って来ていなかったんだった。
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