第15話-中庭
あまり遠くに行くと帰ってくるのも遅くなる。
という事で、中庭に狙いを定めてあちこち歩き出会う使用人に場所を聞いてはまた探しを繰り返している。
僕はこの、目的地を探す時間も好きだったりする。
「……お、見つけた。」
渡り廊下から外に出ると、風はなく陽の光が暖かい。
一面緑の芝生のだだっ広い庭、渡り廊下に沿って長椅子がある。
ただそれだけの場所だが、本を読むには丁度いい。
時計を見ると、歩くのにだいぶ時間を使ってしまっていた。ゆっくり出来ても半刻くらいかな。
長椅子に座り、空を見上げる。
あ、本を部屋に置いて来てしまった。
もう本の内容は覚えてるので頭の中で暗唱すればいいのだけど、持ってた方が落ち着く。
好き過ぎるだろうと自分でも思うが、好きなものは好きなんだから仕方ない。
今回、旅のお供に持って来たゾエの本は、僕が始めて手に取った“商人と町娘”だ。この本は去年の作品。
予言だと言われた内容は、国境付近で起こったイングリスとの紛争とそれに伴う輸入品の価格噴騰だ。
我が国トラスダンもだが、イングリスにも過激な権力者が多いらしい。我が国と平和協定を結ぶとしても国王は過激派をどう処理していくのだろうか。
ウチの過激派は第二王子のアルマンが筆頭。
家臣はイングリスを良く思わない者も多くいるため、そんな者達を集めた組織だ。思いの大きさは様々だ。筆頭が過激思考なのでそちらに流されている感じだろうから、少しでも多くイングリスの印象を良くする要因を持ち帰って、アルマンの力を削ぎたいところだ。
「はは。課題が多いのはウチも変わらないか。訪問は大きな一歩ではあるけど、先は長そうだなぁ。」
空を見あげれば、どこまでも青くがひろがっている。
僕は深く息を吐いた。
あれ……何を考えてたんだっけ?
「やれやれ……僕は魔物について知りに来たんだろ。何政治に首突っ込んでるんだよ。」
そういうのは兄上達の仕事だ。僕の仕事じゃない。
「魔物に興味がおありなのですか?」
渡り廊下から声がしてビクリとする。振り返ると、柔らかく微笑む青年がこちらを覗き込んでいた。
秋の麦の穂のような金色の髪に、青灰色の目。端正な顔立ちだ。執事や使用人ではなく貴族の青年のようで……。賓客の一人だろうか。
挨拶などは一切無く、気さくに話しかけてくる。
酒場のノリというか食堂で相席に座る雰囲気というか?こんな所で庶民のノリが分かる人がいるのかとも思ったが、とりあえず相手が名乗る気が無いならば話を合わせてやる事にする。
「……私の国では、近年、魔物の発生率が格段に下がっていまして、それが良い事なのか悪い事なのかを知りたいのです。イングリスでは魔物の研究も盛んだと聞き及んでおります。」
青年は目を丸くする。
「勉強熱心な方ですね。」
「健やかに生きていける国にしたいのです。」
僕はニコリと笑う。
ゾエが精々と物語を書いていける国にしたい。それだけ。
青灰色の瞳は、そんな僕を見てにこりと笑った。
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