第5話-冬の森
山々は秋の装いから冬の寒々しい姿になり、冬籠の季節になっていく。まだ雪は積もってはいないが木枯らしは冷たく頬を掠めていった。
今年の冷夏は早めの対処が功を奏し、
僕は相変わらずの空気だけど。
冬になると魔物の実没件数が増えていくため、騎士団はどこも大忙しだ。王都騎士団に所属する僕は、その周辺の村や町を中心に討伐に向かう。
ここ数年はその魔物の数も少なくなってきている。
今日は王都と付近の村を繋ぐ街道が通る森に魔物が出没し始めたと報告があったので少人数での調査だ。
「お前さ、ずっと読んでるよな。それ。同じやつばっかり読んで飽きないのか?」
森に入り魔物の痕跡を辿る地道な任務の中、休憩中にお昼用にと出掛けに下町で買ってきた黒パンを食べながら本を読んでいた僕に同僚のヤトがちょっかいを掛けてくる。
「飽きないね。ずっと読んでられる。」
「はぁん。任務なんかに持ってきたら汚れるだろ。本が。」
僕は良くぞ聞いてくれた!とばかりに自慢げに説明してやる。
「問題ない!保管用、外出用、自宅用で、三冊持ってる。その辺は抜かりなく!」
呆れ顔で俺の隣に座ると、黒パンを一枚取られてしまう。
「ほんっとに、どこの国に昼飯を下町で買って食う王子がいんだよ。しかも黒パンだけ。」
荒く轢かれた小麦粉を薄く伸ばして焼いた硬い黒パンを見つめながらヤトが言う。
「嫌なら返せ。この黒パンが真っ白なパンになればその国に王は賢王。僕はこっちの目線のが好き。高い場所から見下ろすのは性に合わない。」
「ふーん。お前が王になれば?」
「いやだね。命が幾つあっても足らん。」
僕は硬いパンをパキンと折って口に放り込む。薄いので噛めなくもないし、水筒もあるので別に何の問題もなく食べられる。貧困層の民は、この味気ないパンを毎日食べて生きている。これがもっと貴族の物に近づけばいいと僕は思っていた。ただそれをやるのは僕の役目ではなく、兄達の役目だ。
「変わった王子だねぇ。ホント。」
「いいんだよ。僕はこれで。」
空を見上げると、パラパラと雪が降り始めたので本を閉じる。流石に水気はダメだ。大切にカバンに仕舞い、マントの下にカバンを移動する。
「しかし、今年は冷夏で一時はどうなるかと思ったが、無事に冬が越せそうで良かったな。」
黒パンを口に放り込みながらヤトが言った。
「……そうだな。」
俺はそれだけ言うと、立ち上がる。
「おい、もういくのか?」
「このまま座ってたら寒さで身体動かなくなる。さっさと調査終わらせて帰る。帰って本を読む!」
ヤトはぱっぱっと手のパン屑を落とすと立ち上がった。
「お前やっぱ団長なれば?」
「目立つから嫌だ。」
隣に並ぶヤトを待ち、僕達はまた森の中を歩き始めた。
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