第19話-書庫
広大な書庫は王宮の図書館かと思うほどに広く、近くの本のタイトルをサラッと見ただけでもこの国の書物だけではない事が分かった。
「こんなに、魔物の事について書かれた本があるんだな。」
うず高く、ひしめく本棚を見上げる。すると後ろから聞き覚えのある声がした。
「そうだよ。事実から迷信、言い伝え、神話にいたるまで、魔物に関連する様々な書を保管してる。クリスは何が読みたい?」
その声を聞いて後ろを振り返ると、ウィルが気さくに微笑んでいた。
僕は彼に向き直り、胸に手を当て優雅に会釈する。
「ウィリアム殿下。この度は貴重な書庫を閲覧する機会を与えて頂きありがとうございます。」
身分を知ってしまった以上、まずは礼儀を通さねばならない。ましてやここは彼の国だ。招かれた者として彼に敬意を示すのは当然の事だ。するとウィルは困ったように笑った。
「クリス、お互い王子という身分なのだし砕けて欲しいよ。どうか、ウィルと呼んで欲しい。」
その言葉にふっと微笑み、僕は面をあげた。
「分かった。ウィル。今日はありがとう。」
「私はキミに恩があるからね。このくらいなんて事ない。」
ウィルはニコリと笑ってそう言った。
「僕にばかりかまけていて良いのかい?花嫁殿が寂しがっているだろ?」
僕が苦笑して言うとウィルは少し遠くの机で読書をする姫君を見た。
「彼女が婚約者のマリーナ。私達は幼馴染でね。彼女はずっと私を支えてくれている。書庫に行くと言ったら付いてきてくれたんだ。」
なるほど、寂しがり屋はウィルの方か。僕はくすりと笑う。
「では本を探して、早くウィルをマリーナ殿にお返ししよう。」
そんな僕の言葉に、ウィルはほんの少し照れたようにニッコリと笑った。
「そうだ。どんな本が読みたい?伝承、仮説、神話……。御伽話なんてのもあるよ。東西南北、現地に赴いて集められるだけ集めてる。東方の島国じゃアヤカシって名前でね。やはり大陸によって魔物の姿は違うらしい。そこから幾つか書物を取り寄せたんだが、それがまた逸品で!まぁそれはまた今度にしてとりあえず、この辺の伝承なんかどう?魔物の根源について言及しているよ!!」
キラキラと輝く瞳で本を勧めてくる。その熱量からも、ウィルが仕事や使命感だけで本を集めている訳では無い事が分かった。
「なるほど、これはウィルの趣味が高じて集まったのか。」
「失礼だな。天職と言って欲しい。これでも一応国家研究機関なんだよ?私が創設したんだ。」
僕は困ったように微笑み、ウィルが手にした伝承の書物を受け取る。
「君の魔物に対する熱意は火傷しそうな程伝わった。これを読ませて頂く事にするよ。あと、ここ数年の魔物の発生状況と被害状況の記録があれば見て見たいが、僕が見ても大大夫?」
ウィルはニコリと笑って僕を見る。
「君なら問題無い。記録は集めて持って来させるから席で待っていて?」
ウィルは、姫君の方を指差して言った。
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