第29話-晩餐会
その夜はイングリス国王とウィル、そしてサユが晩餐会のテーブルについた。
王妃は、居ないのか……。
勉強不足だった。亡くなったとは聞いていなかったのだけど。
国王から話題が出ない事を僕が詮索すべきではないだろう。
イングリスは麦と果実の産地だ。麦から作る酒を数多く海外に輸出している。料理に合わせて出される酒類はどれも香り高く、料理との相性もとてもいい。
談笑をしながら食事をしていると国王から話を振られる。
「トラスダン王国とは春には色取り取りの花々が美しいと聞くが、
国王はにこにこと人の良さそうな笑みを浮かべて僕を見てみる。僕は手を休めて綺麗に微笑むと国王の問いに答える。
「花の栽培については伝統的な物で、国の北側の領地で薔薇を栽培しておりますが、あくまでも工芸品としてでして、盛んかと言われますと限定的なものです。香り高く色鮮やかな品種で、国内でも広く知られていますね。」
「なるほど、我が国では香料が多く使われていてな。香油を薄めて身体に纏わせるのだが、香油を薄めるために薔薇水を大量に使うのだ。その際使用する薔薇は国内でも栽培されているが、土壌との相性が悪いのか量が取れない。トラスダン王国では量産はしないのかね?」
花の量産か……。良いかもしれない。自生している植物も香りの良い種類は多い。花は刈り取ると長持ちしないので、保存法や香りを抽出する技術も研究すれば産業にできる。イングリスが買い取るならやる価値はあるだろう。
「今は小規模な栽培でしかないのですが、国に帰ったら国王に進言致します。」
「前向きな返答を期待するとしよう。」
国王はワインをスッと掲げる。
「我がイングリスと、トラスダンの友好を願って、乾杯。」
国王の号令に、晩餐会に出席した全員がワインを掲げて今後の友好関係を願った。
ウィルは始終静かに食事をするのみで話には加わってこない。国王の前ではこういう人柄を演出しているのだろうか。見た所、国王も御人柄は良さそうなのだが。
この国の素晴らしい景色の話から始まり、内政や興味を持たれていた冷夏の話、そして今後の国家間の交流についてを話し合い、晩餐会は始終和やかに進み幕を閉じたのだった。
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