第18話 やっぱり理解できないんだが

「どうしたんだよ悠真ゆうま、急に泣き出して。今日の試合のことか?気にすんなよ、誰もお前が悪いなんて思っちゃいないさ」


 檜垣ひかきはよくやってくれたと思う。うちみたいな弱者校がベスト8に行くなんて快挙だ。現に俺は悔しい気持ちもあるがやり切ったという気持ちの方が強い。だから檜垣ひかきが責任を感じる必要はないはずだ。


あきら、ニュースは見るか?」


 檜垣ひかきは手で涙を拭いながら言う。


「まあ朝ご飯を食べながら見てるよ」


「最近家の近所でなにかニュース、無かったか?」


「ああそういえば、お前の行ってる塾で自殺した子がいた気がするな」


 当時は近いとしか思わなかったが...何か檜垣ひかきと関係があったのだろうか。


「そう、それのことだ。俺さ、その自殺した子と友達だったんだよ。土日とかでは一緒に勉強するくらいには仲が良くてさ...あいつが自殺する前日にも俺は会ってたのにさ...俺はあいつが苦しんでることにも気づけなくてさ...もしかしたら俺のせいで死にたいって思ったのかも知れないなとも思ってさ...俺って本当の友達って言えるのかなって...俺がもしあいつが苦しんでることに気づけていたらあいつは死ななくて済んだんじゃないかなって...」


 檜垣ひかきは止まらない涙を必死に堪えながら話す。


「しかも今日の試合だってさ、正直勝てたよ。俺がシュート外しまくったせいで負けたんだ。俺は色んな人に迷惑しかかけてないなって思って...もう嫌なんだよ、俺のせいでみんなが辛い思いをするのは」


 そうか、そういうことだったのか。檜垣ひかきは1人で辛い思いを抱えてたんだ。それに気づけないなんて...俺は友人失格だな。


「ごめんな、悠真ゆうま。俺、何にも気づけなくて」


あきら、お前は本当に優しいやつだな。こんな俺を気遣ってくれるなんて」


「でもこれだけは言わせてほしい。お前は責任を感じすぎだ」


「でも今日負けたのだって俺のせいだしさ...」


「あのな、誰も今日負けたことを恨んだりしてないぞ。そもそも俺たちの学校がベスト8まで行けたこと自体すごいじゃないか」


「でも...」


「お前は優しすぎるんだよ。そんなに自分のことを責めるな」


「でも俺がもしあいつの苦しみに気づけてたらと思うと...」


「確かにそのことはお前をずっと苦しめるかも知れない。でもその苦しみも俺が一緒に背負ってやるよ。お前が1人で苦しむ必要はないんだ。だから前を向こうぜ」


あきら...」


「辛いことがあったら全部俺に相談してくれ。俺はいつでもお前の味方だ。お前の痛みも苦しみも全部一緒に背負ってやる。だからほら、泣くのやめろよ、みっともないぞ」


 檜垣ひかきは赤くなった目を擦る。もう檜垣ひかきの目から涙は無くなっていた。


「ありがとう、あきら


「俺はお前の親友だからな」


 そんなこんなで中学生活最後の夏休みが終わった。






 そこからは一瞬だった。部活も引退して毎日勉強、勉強。檜垣ひかきと2人で勉強合宿も行ったりした。檜垣ひかきの家で勉強することになった時、檜垣ひかきの妹から


「お兄ちゃんに彼女ができたんですよ」


 とか言われた時は勉強に身が入らなかった。檜垣ひかきを問い詰めたかったが誤魔化されたので諦めた。今思えばもっと粘ればよかった。


 勉強ずくめの2学期も終わり冬休みも勉強ずくめ。今思えば中3の半分くらいは勉強しかしてなかったな。クリスマスに檜垣ひかきを勉強に誘ったら先約があると言われて断られた時は軽く絶望したりもした。


 そんな冬休みも大きなイベントなく終わり、3学期は受験へ向けてラストスパート。一部の生徒は学校を休むようになっていった。俺と檜垣ひかきは試験日前日まで学校に行っていたが。


 そしてそのまま受験当日。檜垣ひかきとは別室だったので終わった後一緒に帰る約束をしていた。俺の方が早く外に出られたので待っていると、受験会場から出てくる檜垣ひかきが見知らぬ女と手を繋いでいたのでまた軽く絶望したりもした。後で聞いてみたら友達だったらしい。距離感が彼女のそれだった。


 高校に入ってから檜垣ひかきは部活には入らなかった。まだやっぱり少し思うところがあるのだろう。そんな檜垣ひかきを見て、俺も部活に入らなかった。俺だけ部活に入るのは何か違う気がしたからだ。


 高校生活も色々とあったが基本的にはずっと遊びっぱなしだ。俺は部活に行かない分勉強をしたので成績をキープできているが檜垣ひかきはサボりまくっているので留年ギリギリまで成績が落ちた。継続の大切さを実感した。





 そんなこんなで今に至るというわけだ。なので俺は檜垣ひかきのことを熟知している自信がある。しかし俺は今、檜垣ひかきの言っている意味が理解できていない。一昨日出会ったばかりの女と一緒に学校に来ただと?しかもあんな仲良さげに?檜垣ひかき、いつからお前はそんなチャラ男になっちまったんだよ。




——お願い——

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