第6話 知り合いに会ったんだが

 というわけで俺は、れいとスーパーに向かっている。スーパーは俺の家から徒歩5分くらいのところにあり、すぐ近くだ。


「何か好きなものはあるか?」


「私あまり手料理を食べたことがなくて...いつもコンビニのおにぎりとか食べてたから...」


「そうなのか、じゃあ俺が1番美味しいと思ってる料理を作ろう」


 俺はそう言ったものの、胸の中に引っかかるものがあった。


 俺は元々、れいに好きなものがあったらそれを作ろうと思っていた。しかしれいはほとんど手料理を食べたことがないらしく、好きなご飯が明確にないらしい。普通手料理をほとんど食べないなんてことがあるだろうか。外食ばかりしているとかなら分かるがコンビニ飯と言っているあたり違うみたいだし。やはり家族関係に問題があるとしか考えられない。救ってやると言ったものの家族の問題だったら流石に色々と限界がある。とりあえずもう少し詳しい情報が欲しい。


「何を作ってくださるんですか?」


「それは秘密だ。ちなみにその料理は妹の大好物だ」


「妹さんも好きなんですか、それは期待できそうです」


 れいははにかみながら言う。すごく抱きしめたくなったがその気持ちを俺は抑える。


「ちなみに村花むらはなさんには兄弟はいないのか?」


「一歳差の弟が一人います。家にいることが滅多にないのであんまり話しませんが」


 ちゃっかり流石にお前呼びはやめた方がいいと思ったので、村花むらはなさんと呼びかたを変更してみている。何も言われないということはOKのようだ。なるほど、れいには俺と同い年の弟がいるらしい。滅多に家にいないっていうのはどういうことだ?留学中とかそういう感じか?ますます謎は深まるばかりだ。


「昔は仲良かったんですけどね、反抗期なのか最近はあっても無視されることの方が多いです。檜垣ひかき君は妹さんと仲が良さそうなので羨ましいです」


 れいは寂しそうに空を見上げる。


「5年ぐらい二人で暮らしてるからな。嫌でも仲良くなるさ」


 そんなことを話していると目的地が見えてきた。スーパーと言ってもそんなに大きいわけではなく、コンビニより少し大きい程度だ。いわゆる某ショッピングモール会社の○○ばすけっとみたいな感じだ。






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檜垣ひかき君、檜垣ひかき君、急に黙ってどうしたんですか!大丈夫ですか!」


 頭がショートしている。落ち着け俺。ここから打開する方法を考えなければ。れいを義理の妹ってことにするか?ダメだ、何も思いつかねぇ。






 時間は少し巻き戻る。


 俺はれいとスーパーで買い物をしていた。


「なんの食材が必要なんですか?」


「そうだな、卵と鶏肉と、玉ねぎと、あとそれから...」


 俺は作ってきた買い物リストを見ながられいに必要なものを伝える。 


「じゃあ私鶏肉と卵持ってきますね」


「場所わかるか?」


「学校帰りに何回も来たことがあるので」


 すごいな。めちゃくちゃ頼りになる。家の近くのスーパーといっても俺は数えれるくらいしか来たことがない。買い物当番は妹だからだ。ちなみに俺は今ケチャップを探しているがなかなか見つからない。狭いと逆に店内がごちゃごちゃしていて見つけづらいのである。そうだ、こういう時こそ店員に聞けばいいじゃないか。そう思い俺は荷出しをしている店員に声をかける。


「すみません、ケチャップでどこにありますか?」


「ケチャップですか、ケチャップなら向こうの棚の方に...」


 俺は買い物リストから目を離し、店員の方を見た。まて、この店員の顔、見覚えがある。


「って悠真ゆうまじゃん、お前普段スーパーなんて来ないだろ!今日はどうしたんだ?」


 高身長にセンター分け、二重瞼に茶髪。間違いない。この店員は同じクラスのバスケ部、安藤洋介あんどうようすけだ。安藤あんどうはクラスの中心的存在でゴリゴリの陽キャ。休日はもっぱら女と遊んでいると噂の男だ。なんでそんな奴が祝日にスーパーでバイトしているのだろうか。いや、そんなこと考えている暇はない。こいつとれいを合わせてはならない。本能がそう言っている。こいつは俺が知っている中で1位2位を争うほどの口軽男である。こいつにれいと一緒にいたことが知られでもしたら。いや、これ以上は考えたくもない。とりあえずどうやってれいとこいつを引き離すかを考えなくては。


「よくお前の妹にここで会うぜ。なんで今日はお前が買い物しにきてるんだ?」


 なるほど、普段からここでバイトしていたのか。それは盲点だった。いっつも妹に買い出しに行かせている弊害が出たな。


「今妹が修学旅行でいなくてね、それで俺が買い出しに来てるんだよ」


「なるほどな、確かに今修学旅行の時期だもんな」


「ああ、そういうことだ、じゃあ俺はここで」


 よし、なんとか撒けそうだ。


檜垣ひかき君!探しましたよ!こんなところにいたんですか。卵と鶏肉持ってきましたよって、邪魔しちゃいましたか?」


 ああ、終わった。


 俺の頭はショートした。




——お願い——

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