第5話 食材を買いに行くことになったんだが

俺たちはソファーに座って、乾燥機が終わるのを待っていた。


パジャマ姿の怜はすごい無防備だ。寝起きで体温が高いのだろうか。顔を赤くしている。パジャマも男用のを使わせたからかサイズがあっておらず、肩がほとんど見えてしまっている。だってしょうがないだろ。妹のパジャマを勝手に使ったら俺の命が危ない。


れいのことを妹に言うつもりはない。あいつはすぐ妄想するから、れいのことを知ったらすごい面倒くさいことになるだろう。


ちょうど3年前。俺が中3の時、とても仲の良い女の友だちがいた。そいつとは志望校も同じで塾も同じだったから休日でも一緒に勉強したり、いっしょに文化祭にも行った。今思えばほとんど彼女みたいな関係性だったかもしれない。そいつのことは妹も知っていて、妹はすごく口が軽いやつだからいろんな人に言いふらしたのだろう。祖父から突然お金を渡されて


「幸せにするんじゃぞ」


と言われたときは流石に理解が追いつかなかった。それ以来祖父に会うと


「ひ孫はいつじゃ?」


などと意味不明なことを言ってくる。その時は適当に聞き流したがその後、妹が祖父にお兄ちゃんに未来のお嫁さんができたなどと言っていたことがわかった。近所の人に会うたびに


「今日はあの子はいないのかしら?」


「誰のことですか?」


「ほら、あの子よ、よ」


という会話をするのは流石にきつかった。それ以来俺は誓ったんだ。もう絶対女の友達ができても妹には教えないと。


「あいつは元気にしているだろうか」


その女友だちは高校受験に落ちてしまった。別の学校に行ったらしいがどうやら入学してすぐに引っ越してしまったらしい。ラインなどで連絡できればいいのだが俺は生憎スマホを持っていない。スマホ代って高いからね。妹にはスマホを持たせているが結構家計はギリギリだ。別にスマホがなくても支障はない。


「いつか会えたらいいが」






「ピーピーピー」


乾燥が終わったようだ。乾燥機の音がけたたましくなり響いている。


「昨日のお前の服、洗濯し終わったぞ。だからそれに着がえちゃってくれ。ごめんな、俺のパジャマ着てもらっちゃって」


「そんなの全然大丈夫。本当にありがとう。何から何まで」


「そういえば朝ごはん一応作ってあるけど、食べるか?っていらないよな。もう12時だし。昼飯つくっちゃうわ」


「食べる...」


「え?」


「食べたい」


「もったいないからって食べなくてもいいぞ?明日の朝飯にしちゃうから」


「私が純粋に食べたいだけなの」


れいは恥ずかしそうに下を向きながらそう言う。恥ずかしそうにしている方もめっちゃ可愛い。これ以上見ていたら惚れてしまいそうだと思い、俺は目を背ける。


「そうか、なら温めるわ」


俺は逃げるようにキッチンに行き、冷蔵庫に入れておいた朝食をレンジで温める。


「温めてきたぞ」


俺は今日の朝食であるエッグベネフィクトをリビングの机に置いた。


「すごく美味しそう...檜垣ひかき君って料理が上手なんだね」


「いつも俺が飯を作ってるからね。そんな別に褒められるほどの物でもないよ」


「そんなことない、私、こんなに美味しい朝食なんて初めて」


「そこまで言われると恥ずかしくなってくるな」


「ごめんなさい、でも本当に美味しいから..、とても努力してきた味がする」


「どんどん食べてくれ」


恥ずかしくなってきた俺は逃げるようにそう言いキッチンへと向かった。






「今日の夕飯用の食材はあったかな」


俺は冷蔵庫を開けた。



・・・・・・



冷蔵庫の中にはなんにも入っていなかった。


「マジか、ちょっと今日の朝食気合い入れすぎたかな」


今の俺には2択の選択肢がある。


①外に食べに行く

②食材を買いに行って家で作る


まず①だ。なんせ今日は祝日だ。お店が混んでいることは容易に想像できる。外に二人で行ったら知り合いに見られるかもしれない。それはぜひとも避けたい。

②についてだが家の近くのスーパーは広い。スーパーなら歩きまわるので知り合いに会う可能性は低いだろう。

俺は食材を買いに行くことにした。






リビングに戻るとれいは朝飯を食べ終え、ソファーにちょこんと座っていた。


「ご飯ありがとうございました。おなかいっぱいになったので昼ごはんは大丈夫です」


「そうか。今冷蔵庫を見てきたんだけど、夕飯用の食材が足りないみたいなんだ。だから今から食材買ってくるから家でのんびりしていてくれ」


「私も行きます」


「いやいいよ、大したもの買ってこないし、すぐ近くにスーパーあるから」


「食事代払います。恩返しさせてください」


「じゃあ行くか」


こうして俺は美少女とスーパーに行くことになった。




——お願い——

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