第2話 君を救いたいんだが

 いつのまにか校舎に向かって走り出した俺は全速力で屋上に向かっていた。大雨だろうが気にしない。今は彼女を助けなきゃと何も考えずに走り出したので、荷物は校門に置きっぱなしになっているだろう。だが、今の俺にはそんなことはどうでも良かった。






 ここから屋上まで登るとなると9回分の階段を登る必要がある。校門で見た時、彼女はすでに柵に手をかけている状態だった。普通に考えれば今から階段を登り始めても彼女の自殺を止めることはできないだろう。しかし俺には彼女は自殺することに対して躊躇ちゅうちょしているように見えた。確証はないが行かずに後悔するより行って後悔した方がまだマシだ。もし本当に躊躇ちゅうちょしているならまだ自殺を止める余地よちは残っていると考えることもできる。そんなことを考えながら俺は階段を2段飛ばしで登り始めていた。風を切る感触を感じながら俺はどんどん登っていく。






「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 5階をすぎたあたりで俺はもうすでにバテ始めていた。元々俺はそんなに運動神経は良い方じゃないんだ。左腕ひだりうでにいつもつけている時計を見てみると時刻は6時45分だった。


「もうバテ始めるなんて、高校入ってから部活も入らず体育をサボってたつけが来たな」


 俺の体はもうすでに限界を迎えようとしていた。早すぎるって?我ながらそう思う。さっき彼女は柵に手を掛けていたんだ。助けるのなんて無理じゃないか?正直俺はそう思い始めていた。だけどまだ自殺していなかったとしたら...


 もうほぼ最終下校時刻さいしゅうげこうじこくなんだ、応援を求めようと思ってももう既に校舎には先生ぐらいしか残っていないだろう。その先生たちはきっと2階の職員室にいる。見回りの先生達も居る気配はない。彼女を助けることができるとしたら俺だけだけなんだ。


「やるしかねぇよなぁ」


 そう思うと諦めかけていた俺の心にまたやる気が湧いてきた。


「お願いだから間にあってくれよ...」


 最後の力を振り絞って俺は階段を再び登り始めた。






「ギリギリだったな」


 息を落ち着かせながら俺は屋上の扉のドアノブに手をかける。大雨の中、彼女はまだ柵に手をかけていた。顔を見たが知り合いではないらしい。彼女はまだ俺のことに気づいていないようだ。彼女を止めるなら今しかない。そう思い、俺がドアを開けた瞬間、彼女は俺に気づいた。


「こないで!」


 彼女は叫ぶ。気が動転どうてんしているようだ。


「君は今、何をしようとしてるんだ!」


「あなたには関係ないでしょ!」


「いや大アリだね、君、今死のうとしてたでしょ」


「だから何よ」


「死のうとしている人を見捨てた時点でそれは人殺しだと俺は思うね、だから止めにきた」


「勝手に人が死のうがどうでもいいじゃない!止めないでよ、死なせてよ、こんな世界で生きていくなんて私もう耐えられない、もう、ほっといてよ、」


「でも君は実際まだ柵に手をかけている、僕には躊躇ちゅうちょしているように見えたよ、まるで誰かに救いを求めているように。だから俺が君のことを助けることにした。だからほっとかない」


「あなたになにがわかんのよ!私が死のうが関係ないでしょ!おねがい、ほっておいて!」


「いいわけないだろ!俺はもう、あんなことはごめんなんだ...」


 目に手を当ててみると涙が滴っていた。あれ、おかしいな。もう泣かないって決めたのに。


 俺はゆっくりと彼女に近づいていった。


「俺が君の苦しみも痛みも全部背負ってやる、だからお願いだから死なないでくれ」


 俺は彼女のことを抱きしめた。


「俺がお前のことを救ってやる、そして教えてやる、この世界で生きる意味を」


 大雨の中、俺の腕の中の彼女は大粒の涙を流しながら泣いていた。




——お願い——

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