第17話 中学校からの仲なんだが

俺には友人は結構いるが、はっきりと親友と呼ぶことのできる人間は1人しかいない。それが檜垣ひかきだ。しかし俺は檜垣ひかきと知り合ってから初めてあいつのことを理解できないでいる。


俺たちの仲は4年半前から始まった。檜垣ひかきと俺は同じ公立の中学校で、共にサッカー部だったのだ。檜垣ひかきと初めて会ったのはサッカー部の仮入部の時である。練習体験の時にペアを組めと言われ、ペアを組んだのが檜垣ひかきだったのである。初めはぎこちない会話ばかりをしていたが、好きなサッカーチームの話をした際、好きなチームが同じでそこから話が盛り上がった。


檜垣ひかきと話していくと俺と檜垣ひかきの趣味がほとんど同じであることに気がついた。好きなゲーム、好きな科目、好きな食べ物...フェチまで同じだった時は流石に運命を感じた。そこから俺は学校で檜垣ひかきとばかり過ごすようになった。まあそのせいで他の親友ができないんだが。


檜垣ひかきは抜群にサッカーがうまかった。うちの学校は別にサッカー強豪校というわけでもなかったから普通に中1の段階で中3の試合にスタメンで出ていた。噂によるとサッカー強豪校から誘いもあったらしいが家から遠かったので断ったらしい。まあなんともあいつらしい答えである。


中1の時は同じクラスだったのでずっと檜垣ひかきと一緒にいた。1年の郊外学習の班も同じだったし、授業でペアを組む時はいつも檜垣ひかきと一緒に組んでいた。一緒にサッカーも見に行ったし、今思えば仲良すぎて気持ち悪かったぐらいである。


中2になってクラスも変わり、会う頻度も中1の時に比べたら少なくなっていた。まあ一緒に登下校もしてたし毎週オンラインでゲームもしていたから全然疎遠にもなっていなかったんだが。


サッカー部の方は順調で俺たちの学校は初の都大会ベスト16まで行った。運良く弱い学校とばかりあたったのもあるが、殆どは檜垣ひかきのおかげと言っても過言ではない。うちの学校の得点の3分の2は檜垣が決めていたからな。良くも悪くも檜垣ひかきのワンマンチームだった。


中3になって檜垣ひかきが塾に行き始めた。どうしても家の近くの高校に行きたかったらしい。中学校とき、今では考えられないほど檜垣ひかきは勉強ができて、中2の段階でその高校のA判も出ていた。だから塾に行く意味はなかったと思う。でもあいつは謎に用心家だから塾に行き始めた。俺は自由時間が潰されるのが嫌だったから塾には行かなかった。


檜垣ひかきが塾で知り合ったらしい女2人と仲良くしているのを見て、少し寂しくも感じた。毎週一緒に遊んでいたオンラインゲームもその女2人と勉強するからと言われ断れられることも多くなっていった。その頃から次第に俺も檜垣ひかきと同じ高校に行きたいと思うようになっていった。


俺たちの中学生活最後の大会が始まった。俺たちは順調に勝ち進め、去年を超えるベスト8まで行った。快挙である。


その頃から俺も本格的に勉強を始めた。遅いと思われるかも知れないが俺も檜垣ひかきほどではないが勉強はできたので芝山高校ぐらいだったらあまり勉強しなくても入れると思ったのである。だが流石にノー勉受験をやる勇気はないので勉強し始めたのだ。


だんだんと檜垣ひかきと話すこともサッカー部の時ぐらいになっていった。夏休み中だったので俺はずっと家で勉強していたし、檜垣ひかきも家で勉強していたりその女友達2人と塾に行ったりしていた。


ある日、勉強の休憩がてらニュースを見ていると、まさに檜垣ひかきが行っている塾で飛び降り自殺があった。俺は近いな程度にしか思わなかった。


次の日の大会前日練習、檜垣ひかきが休んだ。檜垣ひかきは練習を滅多に休まなかったから心配になり、電話をかけた。檜垣ひかきは出なかった。


次の日、大会の日なのに檜垣ひかきが集合時間より少し遅刻してやってきた。その日の檜垣は明らかに様子がおかしかった。これに勝てばベスト8だと他の部員が盛り上がっている中、檜垣ひかきだけは1人俯いていた。俺は檜垣ひかきに声をかけた。


「大丈夫か?」


「うん...」


「そうか、そろそろ試合だぞ、絶対勝とうな!」


確実に檜垣ひかきはおかしかった。なのに俺は目の前の試合に集中したくてそれ以上の言葉を言わなかった。






負けた。俺たちは試合に負けた。1点差だった。正直勝てた試合だった。あの檜垣ひかきがシュートを外しまくったのだ。10回以上はシュートを撃っていたと思う。でも俺たちは全員檜垣ひかきのおかげでここまで来れたことはわかっていたから誰も檜垣ひかきのことを責めなかった。


試合会場から家に帰る途中、俺はなんと檜垣ひかきに声を掛ければいいかわからなかった。いつもはすぐに出てくる言葉も、その日だけは出てこなかった。


「どうしたんだ、悠真ゆうま、お前今日なんかおかしいぞ?」


俺はそう言った。


あきら、俺はどうすればいいと思う?」


檜垣ひかきは手を顔にあてて泣き出した。




——お願い——

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