第8話 夕飯を作りたいんだが

 スーパーから出てしばらく経ったあと、俺はまだれいと手を繋いでることに気づいた。


「ごめん、手引っ張ちゃって。嫌だったよな」


「あったかい...」


「ん?なんか言ったか?」


「なんでもない...」


 れいは恥ずかしそうに下を見ながら言う。れいは何て言ったのだろうか。気になるがまあいいか。


「夕方になると流石に寒いな」


「そうですね。もう10月ですから。これからもっと寒くなりますよ」


「...」


村花むらはなさんってもう高3だよな?大学受験とかどうするんだ?」


「一応勉強してますよ。昨日はできませんでしたが」


「...」


村花むらはなさんはどの辺に住んでるんだ?」


麻谷町あさやちょう駅から地下鉄に乗って25分ぐらいのところに住んでます」


「...」


 まずい、流石に話すことがなくなってきた。


 そりゃあそうだ。知り合ったのだって昨日の夜のことだし話すことがなくなって当然である。行きはあんなに短かったスーパーの道だって体感2倍くらいあるように感じる。


「そういえば夕飯なに作るかわかったか?」


「オムライスですよね」


「すごいな、よくわかったな」


「いや、鶏肉と卵買ってるんですからわかりますよ」


「流石に分かるか」


「私だってオムライスぐらいは知ってます。弟の大好物なんですよ、オムライス」


村花むらはなさんの弟さんもオムライスが好きなのか。うちの妹と気が合いそうだ。弟さんにオムライスを作ってあげたりするのか?」


「それが...私実はあまり料理が得意ではなくて...」


「え、意外。村花むらはなさんはなんでもできそうな人だなって思ってたから」


「あんまり茶化さないでください...恥ずかしいです...」


 れいは顔を赤らませながら言う。俺は不覚にも可愛いと思ってしまった。


「まあ村花むらはなさんには他にいっぱいいいところがあると思うぞ」


「そんなことないですよ、檜垣ひかき君に比べたら私なんて...」


「そんなことないよ、例えば村花むらはなさんは少なくとも俺が今まで会ってきた女の人で1位2位を争うぐらいには可愛い」


檜垣ひかき君って人は...おだててもなにも出ないですからね」


 照れくさそうにしながら、れいは言う。


 危ない危ない、これ以上見ていると惚れてしまいそうだ。俺はれいから目を逸らす。


檜垣ひかき君、一人で何してるんですか。もう家が見えてきましたよ」


 俺とれいがそんなたわいもない話をしているうちに結構歩いていたようだ。俺の家のマンションが見えてきている。


 俺の家のマンションは5階建てで、マンションとは言っているもののアパートに近い感じだ。一応オートロックは付いているからアパートとは違うが。俺の家はそのマンションの4階にある。ちなみにエレベーターはないから引っ越しの時は地獄だった。あんなことは2度とごめんだ。






 -----------------------






「ただいまーって、誰もいないんだった」


 いつもおかえりと言ってくれる妹がいないのは少し寂しいな。


「それじゃあ夕飯作っちゃうわ」


 俺は買ってきた食材をキッチンに置きながら言う。


「私も手伝います」


「大丈夫だよ、そんなに量もないし」


「手伝いたいんです」


 珍しくれいが頑固だ。そういえばオムライスだけとなると少し物足りないな。れいに何か作ってもらうか。


 そういえば明日の昼飯用にじゃがいもとにんじんを買ったんだった。これでポテトサラダとか作ってもらうか。


「じゃあポテトサラダとか作ってくれないか?」


「ポテトサラダですか、作ったことないけど頑張ってみます」


 そういえばさっき料理があまり得意ではないって言っていたような...まあ大丈夫だろ。そんなに難しいものでもないし。 






「これはなんだ?ポテサラなのに色が黒いんだが」


「違うんです...レシピ通りに作ってたら何故か色がいつの間にか変わってて...本当ですって、だからそんな目で見ないでください...」


 れいは申し訳なさそうにこっちを見ている。うん、料理が得意ではないって言っている人に料理を任せるのはやめるようにしよう。


「まあ色が変わってからすぐに気づけてよかったよ。これならまだなんとかなりそうだ」


「すみません...私からやりたいって言ったのに...」


「別にもう気にしてないよ。リビングでのんびりしていてくれ」


「本当にすみません...」


 れいは申し訳なさそうにしながらリビングに向かっていく。なぜだろう、俺にはれいが小動物のように見えた。






「我ながらうまく作れだぞ」


 出来上がったオムライスとポテサラを見ながら俺は思う。今までで1番うまく作れた気がする。


村花むらはなさん、夕飯できたぞ」


 リビングにいるはずのれいから返事が返ってこない。寝てしまったのだろうか。俺は確認するためにリビングへと向かう。


村花むらはなさん、起きてるか?」


 リビングに着くとそこにはイヤホンをつけながら勉強しているれいの姿があった。一つ一つの動作が美しく、これ以上見ているとどこかへ引き込まれてしまうように思えたほどだ。


村花むらはなさん、夕飯できたから食べよう」


 俺は肩を叩きながら言う。すごい集中力だ。全く気づく気配がない。


 やむをえん、俺はよく妹に使っている奥義を使うことにした。


村花むらはなさん、夕飯できたってば」


 そう言いながら、俺は村花むらはなさんの首元を触る。


「きゃ!」


 ようやく気づいてくれたようだ。


村花むらはなさん、夕飯できたよ、ってあれ?」


 れいは無言でダイニングへと向かって行った。




——お願い——

この作品はカクヨムコンに応募しています。


もしよかったら★評価とフォローお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る