第10話 仲直りをしたいんだが

「別に怒ってないですよ。少し怖いと思ってしまっただけです...」


 怖い、れいは俺のことをそう思ってしまったらしい。何かれいを怖がらせるようなことをしてしまっただろうか...


「もしかして、俺が村花むらはなさんの首を触ってしまったからか?」


「...そうです」


 確かに、まだ出会って1日程度の男から突然首を触られるなんて恐怖を抱くのも当然である。なぜ俺はその程度の配慮もできなかったのだろうか。いや、今は謝る方が先だ。


「本当にごめん、確かに知り合ってから1日ぐらいしか経ってない男から突然首を触られるなんて怖いのも当たり前だよな」


「いえ、私がなかなか檜垣ひかき君の声に気づかなかったから気づかせるために私の首を触ったことだってわかってます。しかも別に檜垣ひかき君に首を触られても悪い気はしませんよ...」


「でも村花むらはなさんが怖いと思ってしまったのは事実だ。これからはもっと配慮するように気をつけるよ」


「だからそうではなくて...少し家のことを思い出してしまったんです」


 俺はれいが少しでも苦しいと思わせないように気を付けていたつもりだが...いつのまにかれいを辛い気持ちにさせてしまっていたらしい。君の苦しみも痛みも全部背負うとか言っていた俺が恥ずかしい。背負うどころか逆に与えてしまっているじゃないか。自分が情けない。


「俺は村花むらはなさんの家の事情がどうなっているのかなんて知らない。知ろうとも思わない。でも、辛いことがあったらなんでも言ってほしい。一人で抱え込まないで欲しいんだ」


「なんでそこまで...」


「好きだから」


「え?」


村花むらはなさんのことが好きだからだ。だから村花むらはなさんが一人で辛い思いをしているのは耐えられない。そんなの認めたくない。だからお願いだ。村花むらはなさんが辛いと思ったら全部俺に話してくれ。一緒に共有させてくれ。村花むらはなさんの助けになりたいんだよ」


檜垣ひかき君...ありがとうございます」


 れいはその後色々話してくれた。家族と仲があまり良くないこと、でもれいは家族と仲良くしたいと思っていること。そのほかにも色々と話してくれた。途中辛いことを思い出して泣いてしまうこともあった。でも頑張って俺に話してくれた。


 俺はれいを絶対に守ると心に強く誓った。


「ちょっと話しすぎちゃいました。オムライスもすっかり冷めてしまいましたね」


「レンジで温めてくる」


すると、れいは俺を止めた。


「でも...冷えたオムライスもとっても美味しいですよ。今まで食べたことないぐらいには」


 れいは笑顔でそう言った。俺はれいのことが大好きになった。






「俺めっちゃ恥ずかしかったくね?」


 夕飯後、お風呂で俺は一人思った。


「普通にれいに直接好きだからとか言っちゃってるし。というかよく考えてみると村花むらはなさんが辛い思いをしているのが俺には耐えられないとかめっちゃ恥ずかしいし、あーマジで恥ずかしい...」


 俺は一人で悶絶していた。






「あー、ここまで気持ちよくないお風呂は初めてだ」


 俺はお風呂から上がり、体を拭いていた。悶絶していたらいつのまにか30分ぐらい経ってしまっていた。感覚では5分ぐらいだ。


「マジでどう言い訳しようかな」


 俺はどうれいに好きと言ってしまったことを言い訳するか考えていた。出会って1日程度の男に突然好きって言われたら普通なら気持ち悪いと思うだろう。なんなら嫌われる可能性だって十分にあり得る。あんな恥ずかしいことを言っておいて怜に嫌われていたら俺の精神は持たないだろう。俺は緊張しながら更衣室を出た。 






村花むらはなさん、お風呂上がったよ。だから入っちゃってくれ」


「わかりました。入ってきますね」


 れいは更衣室に向かう。


村花むらはなさん、さっきのことなんだけど...」


 俺が話そうとした時、れいが遮った。


檜垣ひかき君、さっき私のこと好きって言いませんでしたか?」


「うっ、それは言葉のあやで...」


「じゃあ嘘ってことですか?」


「いや嘘ではないけど...」


「別にそんなに怯える必要ないですよ。それに別に悪い気はしませんでしたよ、檜垣ひかき君から好きって言われるの」


「え、それってどういう」


「じゃあ私お風呂入ってきますね」


 れいは舌を出しながら更衣室へと入っていった。


 れい、知ってるか、男っていうのはすぐに勘違いしてしまう生き物なんだぞ。




——お願い——

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