第11話 悩まざるをえないんだが

「さっきのれいの発言、どういうことだろうか」


 れいがお風呂に入っている間、俺は考えずにはいられなかった。


「悪い気はしないってどういうことだ?悪い気はしないってことは嬉しいわけではないってことだろうか。でも嫌というわけでもなさそうだし...こんなこと言われたことないからわかんねぇ」


 俺は悩まざるをえなかった。なんせ他人に直接好きって言ってしまったことさえ初めてなのだから。


「というかさっきはれいと話しているうちにヒートアップしてきてつい好きだからとか言ってしまったが...まだ出会って1日目の男に唐突に好きだからとか言われるのもあれだな。というか俺は本当にれいのことを好きだと思っているのだろうか。さっきはれいの助けになりたい一心で話していたから俺のテンションもよくわからないことになっていたし...わかんなくなってきた」


 俺は自分の気持ちでさえもわからなくなっていた。






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「さっき檜垣ひかき君の言ってたことって本当なのかな」


 私はお風呂に浸かりながら悩んでいた。


檜垣ひかき君は本当に私なんかのことを好きって思ってくれているのかな。なんか勢いで言ってしまった感もあったし...それに私なんて檜垣ひかき君に迷惑かけてばかりだし...好きになる要素なんてどこにもないよね...」


 私はお湯に鼻まで浸かり、息を吐く。お湯から気泡が出てきて、ぶくぶくと音がする。


「でも、檜垣ひかき君から好きだからって言われた時、嬉しかったな...」


 私はどうしたいのだろうか。自分でもわからない。


「でもやっぱり檜垣ひかき君が本当に私のこと好きって思ってくれているとは思えない。まだ出会って1日目だし。それに、さっきのは多分勢いで言ってしまったんだと思うし...うん、決めた。昼間のように檜垣ひかき君に接するようにしよう」


 私がもし、自分に自信の持てる人だったら違う選択肢をとっていたかもしれない。例えば檜垣ひかき君に自分の思いを伝えるとか...でも実際は、私は自分に自信が持てない。だからこうやっていつも現実から逃げようとしてしまう。今回もそうだ。私は檜垣ひかき君が好きって言ってくれたことを無かったことにしようとしている。


「もっと強かったらいいのに...」


 私は湯船から出た。






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「きっとれいは俺のことをからかったんだ。きっとそうだ」


落ち着いてきた俺はそう考えるようになっていた。


「お風呂場に向かう直前にれいが舌を出していたのは俺をからかうためだ。そうに違いない。落ち着いて考えてみろ、まだ俺はれいに大したこともしてあげれてない。なのに俺のことをれいが好きだと思うはずがないだろ。さっきはやっぱりテンションがおかしかったんだ。俺もれいも」


俺はパジャマに着替えるためにソファーから立つ。


「次にれいにあった時は普段通りに接しよう」


俺はそう決心し、パジャマをとりに俺の部屋へと向かった。






俺はパジャマに着替えた後、リビングで怜のお風呂が終わるのを待っていた。


れいのやつ遅いな」


時計を見ると、れいが風呂に入ってから45分ほどたっていた。まあ俺も30分ぐらい入っていたから文句は言えないんだがな。


「すみません、長湯しちゃいました」


俺がそんなことを考えているとれいがお風呂から上がってきた。怜は少し濡れた髪を後ろで結んでいる。普段のれいとはまた違った良さがそこにはあった。


「別に大丈夫だ。俺も村花むらはなさんのことを待たせちゃったしな」


「本当に何から何までありがとうございます」


時計を見ると12時を指していた。


「俺は明日学校だからもう寝るけど、村花むらはなさんはどうするんだ?」


「私も学校に行くのでもう寝ますよ」


「無理していく必要はないと思うけど...」


「一応私受験生ですしね。それに学校は好きですよ」


「そうか、じゃあまた明日、おやすみ」


「おやすみなさい」


自分の部屋についた俺は、部屋にあるアナログ時計のタイマーを7時半にセットする。うちの学校の始業は8時と早いので7時半には起きる必要があるのだ。タイマーをセットし終え、布団に潜ると一気に眠気が襲ってきた。


「明日、安藤あんどうと会いたくないなぁ」


俺はそんなことを考えているうちに眠りについた。




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