白き光の神子(みこ)と金の龍

入江 涼子

第1話

  俺は幼い頃からある龍と契約していた。


  その龍の名は嵐月。俺の一族を代々守護してきた龍神様だ。古い時代では嵐月の親父さんが守護していたらしいが。名を優月様といったそうだ。ちなみに俺のはとこに水之江 怜という女の子がいる。この子は嵐月の遠い親戚に当たる蒼月という龍に守られていた。そう、俺や怜のご先祖は悪霊や妖怪を退治する巫女だったと聞いた。もしくは陰陽師とか。何でも飛鳥から奈良時代にかけて陰陽道が中国から伝わったが。それに偶然にもその時代のご先祖様が関心を持っていたという。なので都へ行って陰陽道の修練を積み、仏教の修練も積んで。後の陰陽師になったとか。名前が後世にも伝わっている。

  水之江 弓月ゆづきと言ったらしい。この弓月が凄腕の陰陽師だったらしく鵺とかいった妖怪ですら退治してみせたというのだ。その時、彼は嵐月の親父さんである優月様と武芸の得意な多臣 真夏という人物と戦った。真夏は後の源 頼光のごとく霊力を持った男だった。まあ、昔の話だから確かな事はわからんが。


  俺は今日も特注の刀を持って人気のない公園にいた。側には人型になった嵐月もいる。黄金の髪に琥珀の瞳の超がつく美形だ。その嵐月も懐刀を持って俺と背中合わせで出没した悪霊を睨みつけている。


「……雄介。奴らは三体ほどいるが。如何する?」


「……ふうむ。嵐月は近くの奴を引きつけてくれ。その間に一体を俺がやる」


  嵐月は分かったというと素早く俺から離れた。囮になって悪霊のうちの二体を引きつけてくれている。俺はその間に一体にそっと近づく。刀の鞘を払う。銀色の刀身があらわになる。鈍く日の光をそれが反射した。一体は気付いたのか逃げようとする。三体とも真っ白なワンピースを着た若い女性の姿をしていた。長い髪も同じような感じだが。顔立ちもそっくりだった。

  俺は冷静に悪霊を眺めつつ距離を縮める。そうしてジャンプして刀で斬りつけた。悪霊は目を大きく見開いた。血は出ていない。ただ、斬られた部分が透明になりぽっかりと穴が開いたようになっている。肩から胸にかけてを袈裟斬りにしたが。まだ動いていてしぶとい。ふうと息をついた。


「……伊豆名の神に畏み畏み奉る。かの者を払い給え、清め給え!!」


  俺は祝詞を短く唱えるとふわふわと浮く悪霊の足--脛の部分を斬りつけた。すると声にならぬ悲鳴をあげて悪霊は空気に溶けて消えていく。嵐月も懐刀で悪霊に応戦していた。悪霊は嵐月の目を狙って風の術で攻撃している。彼もやられっぱなしではない。時折、懐刀で腕や足を狙って斬りつけている。そのたびに悪霊の腕や足は俺が攻撃した時みたいに透明になっていた。


「雄介。だいぶ弱らせた。トドメを!」


「おう。任せとけ!」


  俺は頷くとジャンプして二体目の悪霊に刀で斬りつけた。胸元を狙う。スパッと服と一緒に肌も切れたようだ。ちょっとだけ豊満な胸が見えた。


「……あ」


『何を見てんのよ。スケベ!!』


  本来聞こえないはずの声が聞こえた。高めのよく通る声だ。可愛いなと思っていたら二体目の悪霊は怒って疾風を放ってきた。運悪く俺の左腕に疾風が掠めた。スパッと切れて服と一緒に肌も切り傷がつく。ピリッとした痛みが脳に届いた。俺は油断はダメだと首を横に振った。もう一度、二体目に刀で斬りつける。今度は本気で首筋を狙う。左の二の腕からポタリと血が流れた。それを物ともせずに喉の辺りをズバッと斬った。悪霊は盛大に顔を歪めてこちらを睨みつけた。すうと声も発さずに結局は消えてしまったが。俺は好みだったのになと思う。が、後頭部をスパンと叩かれた。


「集中しろ。このバカ!」


「いってえな。わかってるよ!」


  俺は売り言葉に買い言葉を言うと三体目を見た。最後に残された奴は怯えてガクガクと震えながらこちらを見ていた。俺はごめんなと言って三体目にゆっくりと近づいた。そうして地面に降り立った奴の胸元の辺りに刀を突き立てる。背中にそっと手を添えた。ずぶずぶと刀は胸に沈んでいく。痛そうに三体目も顔を歪めた。


『……ごめんなさい。これでやっとパパとママの所に行けるわ』


  三体目の悪霊--女の子はふわりと笑った。そのまま、透明になって一緒にいたモノたちと同じように消えていく。なんとも言えない気持ちでその光景を見守ったのだった。

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