第25話
俺はあれから翌日に自宅に戻った。
夕凪のお姉さんではなく両親に自動車で迎えに来てもらった。溜まりに溜まった洗濯物に母さんに怒られたのは良い思い出だ。それでも俺の体調は回復していて悪霊退治にも出て良いと父さんから許可も得られた。こうして俺は無事に呪いを克服できたのだった。
「……とにかく無事で良かったです」
そう言って笑ったのは嵐月の妹の月華ちゃんだ。相変わらず、銀の髪と翡翠の瞳は綺麗だった。俺は自宅のリビングにて嵐月、蒼月さん、月華ちゃんにはとこの怜と5人で集まっていた。
「うん。雄兄ちゃんの呪いが解けてホッとしたよ」
「……心配かけたな。怜」
「けど。夕凪さんかあ。あたしも会ってみたいな」
「会いたいのか。また今度、本人に聞いてみるよ」
「確か、あたしと顔がそっくりなんだよね。楽しみだなあ」
のんびり屋な怜だと会話が噛み合わない。それでも俺は立ち上がると怜に近づいた。ぽんぽんと肩を叩く。
「怜。お前も体調が回復して良かったよ。あの時は俺もけっこう心配したんだぞ」
「……うん。ごめん」
俺は無言で怜の肩から手を離す。にっと笑いながら蒼月さんを見た。
「蒼月さん。彼氏さんと怜が無事にゴールインできたら。祝福してやってくれよ」
「言われずともわかっている。雄介もちゃんと祝え。でなければ、嵐月と一緒にあんたを締め上げるからな」
蒼月さんは物騒な事を言う。俺は怖いので嵐月の後ろに隠れる。嵐月と月華ちゃんは呆れたような顔だ。
怜と俺は人間だからいいとして。他のメンバーは全員が龍だ。しかも人型の姿が皆、綺羅綺羅しいからちょっと圧感だった。
怜は俺が出した麦茶を飲んだ。ガラスのコップに入れてあるが。カランと氷の音が聞こえた。俺もアイスコーヒーを飲む。龍神様達は各々くつろいでいるが。飲み物と食べ物は人間の前では絶対に口にしない。昔からのルールなので致し方なかったが。
「……ははっ。雄兄ちゃん。嵐月様の後ろに隠れてたらダメだよ。情けないなあ」
「……怜。お前、笑っていないで助けてくれよ。本当に蒼月さん、目が
「それは気のせいでしょ」
きっぱりと言われたが。いや。あの目は本気だった。でなければ、言わないだろうし。それでも怜は笑い続ける。仕方なく嵐月の後ろから出た。
「……雄介。お前な」
「いや。言わないでくれ。俺もわかってるって」
「まだ、何も言っていないぞ」
ちょっと嵐月は可哀想な奴を見る目で俺を見た。確かに情けないだろうさ。けど蒼月さん、怒らせたら嵐月以上に怖えんだよ。子供の頃に蒼月さんに「やーい。やーい。蒼月さんのツンツルテン!」とからかったら。プチっとキレた蒼月さんに追っ掛け回された事があった。ちなみに龍型でだ。今となっては苦い思い出だが。
「……雄介。あんたが私の事をツンツルテンと言った事は忘れていないぞ」
「いや。悪かったって。それについては反省しているからさ!」
「ほほう。だったらあんたの頭をツンツルテンにしてやろうか?」
蒼月さんは俺に近づくと両方の米神に拳を当てた。グリグリと梅干しをやられる。地味に痛い!!
「……い、痛て!!」
「……雄介。私のどこがツンツルテンだ。言ってみろ」
「……お、俺が言いたかったのは龍型での事だよ。鱗に覆われた体が綺麗だからツンツルテンと言っただけで……」
そう言うと余計に梅干しをする蒼月さんの力が強くなる。めっちゃ痛い。怜はゲラゲラ笑っているし。月華ちゃんはちょっと困惑気味だし。嵐月も傍観している。カオスとなっていた。
「……何やってんの。蒼月様。雄介さんを離してあげて」
「……え。君は」
静かな声と共に蒼月さんの拳が離れた。俺も振り向くとそこには。怜とそっくりな少女--夕凪が佇んでいた。いつも着ているボーイッシュな服ではなく淡いレモンイエローのブラウスにちょっと濃いめのブラウンの涼しげなロングスカートという大人っぽい女性らしい雰囲気の格好だ。嵐月と俺、蒼月さんは見惚れてしまう。ちょっとほんのりと色香さえ漂っている。
「初めまして。蒼月様。私は日野枝 夕凪と申します」
「あ。君が夕凪さんか。雄介から話は聞いている」
二人が挨拶を交わすと怜も加わった。ちょっと怜は驚いているようだ。
「……うわあ。鏡を見ているみたい。初めまして。あたしは水之江 怜といいます。よろしく」
「うん。初めまして。本当にそっくりだね」
「そうですね。あ。あたしの事は怜でいいですよ。同い年だと聞いてるから。夕凪ちゃんって呼ばせてもらうね」
「……わかった。改めてよろしく。怜ちゃん」
「よろしく。夕凪ちゃん」
夕凪がにっこりと笑うと怜もはにかむように笑った。月華ちゃんは羨ましそうにしている。
「……あの。夕凪さん。唐突ですが。私を守護龍にしてもらえませんか?」
「……え。月華様!?」
「私も夕凪さんのお役に立ちたいんです。どうかお願いします!」
夕凪は困っているようだが。俺は苦笑しながら頷いた。夕凪はそれを見てわかったらしい。俺に視線を合わせて小さく頷いた。
「……わかりました。私と一緒だと大変な事が多いかもしれませんが。それでもよろしければ。こちらからもよろしくお願いしたいです」
「……ありがとうございます!!」
「そうと決まれば。早速、明日から特訓開始ですね」
「はい!」
「ふふっ。元気がいいですね」
夕凪に褒められて月華ちゃんは嬉しそうだ。その後、怜と夕凪、月華ちゃんの三人は夜遅くまでガールズトークを楽しんでいたのだった。
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