第26話

   翌日に早速、月華ちゃんと夕凪の特訓が始まった。


  ちなみに怜と夕凪は俺の家に一か月くらいは泊まることになっている。なんでかと言うと怜のじいちゃんがまだ入院中であるため、ご両親から「じいちゃんが退院するまでは怜を預かってほしい」と頼まれたからだ。まあ、怜も高三だから大丈夫だろうにと母さんに言ったが。「仕方ないのよ。怜ちゃん、この間に高熱で寝込んでたでしょ。おじさんもおばさんも心配なのよ」と言っていた。

  そんなわけで怜をうちで預かっていたのだが。けど俺と二人っきりというのも外聞が悪い。そこで同い年で女性である夕凪にも「うちにしばらく居て欲しい」と頼んだ。夕凪はご両親から許可をもらった上でOKしてくれた。夕凪も月華ちゃんとの特訓もあるため、一か月の期間はうちにいる。一人っ子の俺からすると妹が二人もできたみたいだ。夕凪は月華ちゃんに呪術をレクチャーしていた。月華ちゃんも月零様と一緒に夕凪に護身術を教えていたのだった……。


  初日から半月後。夕凪は月華ちゃんと初の悪霊退治に臨む。俺と嵐月も同行していた。実は夕凪から俺ん家に居候するのが決まってから翌日の夜に。想いを告げられた。


『……雄介さん。私、あなたの事が好きなんです。付き合ってください!!』


『……え。ゆ、夕凪ちゃん?!』


『その。気が早いかもしれないけど。結婚も視野に入れておいてほしいんだよね』


『……俺で良かったら付き合うよ。けど。本当にいいのか?』


『いいの。ありがとう。大好き。雄介さん!』


  とびっきりの笑顔で喜ぶ夕凪に想いがこみ上げた。俺はその気持ちのままに彼女を抱きしめていた。


「……雄介。ボケっとするな。悪霊が来たぞ!」


「あ。本当だ。悪い!」


  俺は嵐月が弱らせてくれた悪霊に向かって刀を振り下ろす。ビュンッと音が鳴り男の悪霊の右腕を斬りつけた。すうとそこから透明になる。月華ちゃんと夕凪も背中合わせで戦っていた。双剣で月華ちゃんが女の悪霊に斬りつけている。悪霊も彼女を睨みつけながら氷の術で反撃した。そこをすかさず、夕凪が炎の術で応戦する。


「……炎を司どりし朱彦の神よ。かの者を滅せよ」


  祝詞を唱えると炎の玉が現れて吹雪を生み出していた悪霊めがけて放たれた。ばあんっとぶつかり両方の攻撃が相殺される。ぶわっと霧ができて俺と嵐月は互いを見失わないように背中合わせになった。


「……嵐月。月華ちゃんと夕凪ちゃんは無事か?」


「そうだな。二人の気配は感じるから。無事のようだ」


「なら良いんだが」


  嵐月とそうやり取りしながら月華ちゃんと夕凪がいるらしき方角を見やった。影があるので二人は無事のようだ。霧が晴れると女の悪霊は炎の術のせいで右膝から下が消えていた。男の悪霊も完全に消滅している。夕凪の霊力は凄いと改めて思った。


「……夕凪さん。女の悪霊がまだ残っています。気を抜かずに行きましょう!」


「わかった。月華さん。私が舞扇で攻撃するから。援護を頼むわ!」


「はい!」


  夕凪はズボンのポケットから舞踊に使う扇子を取り出した。それを開いてて悪霊に攻撃する。扇子が仄かに光ったのがわかった。霊力を込めたらしい。月華ちゃんも応戦した。ざんっと双剣の刃先が悪霊の腹を斬りつけた。夕凪の扇子の先が悪霊の腕に当たった。すうと手から肘までが空気に溶けていく。月華ちゃんがトドメをさすと女の悪霊は完全に消滅する。


「……悪霊はいなくなったようね」


「そのようですね。お疲れ様です。夕凪さん」


「うん。お疲れ様。月華さん」


  そう言い合った後で二人は固く握手した。女同士の友情もいいもんだな。そう思いながら俺は嵐月を見る。


「……半月前はどうなるかと思ったが」


「ああ。私もそれは思っていた」


「ま。二人が上手く協力できているようで良かったよ」


「……そうだな」


「もう夕方だな。そろそろ帰るか」


  嵐月が頷いたので俺は夕凪と月華ちゃんのもとに行く。二人は俺の姿を見るとにっこりと笑った。


「あ。雄介さん」


「……お疲れ様。雄介さん」


「ああ。お疲れさん。二人とも」


  そう声をかける。俺は夕凪に手を差し出した。ちょっと夕凪は顔を赤らめた。恥ずかしいようだ。


「……どうしても。手を繋がないとダメ?」


「……ううむ。強制はしねえよ。夕凪ちゃんが良かったら手を繋ごう」


  俺が言うと夕凪はそっと俺の手に自分のそれを乗せた。俺はぎゅっと握った。無言で歩き出す。夕陽が俺と夕凪の影を長く映し出す。ゆっくりと歩きながら俺は夕凪の小さくて柔らかな手を少し強く握った。


「……夕凪。君が大学を卒業したら。俺からプロポーズするよ。いいか?」


「……うん。いいよ。私、待ってるから」


「ああ。わかったよ」


  そう言ってまた歩き出す。静かで穏やかな時間だ。いずれ、俺と夕凪は生涯の伴侶になるのだろうか。それも悪くないな。考えながら夕凪に笑いかけた。先ほどよりも顔を赤らめながらも夕凪は照れ笑いの表情で笑い返してくれる。可愛いなと思いながら家路についたのだった。

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