第27話

   俺は夕凪と想いを通じ合わせてから以前以上に悪霊退治に力を入れるようになった。


  夕凪と月華ちゃんがペアを組んでから一週間が過ぎようともしている。後、八日もしたら怜と夕凪は自宅に戻るだろうな。

  月華ちゃんと嵐月も同行してくれているが。俺が夕凪といちゃいちゃしていると生ぬるい目で見られるようになっていた。心霊的な事件を解決したりもしていた。


「……雄介さん。今日はどうする?」


「今日か。そうだなあ。休みにしてデートでもするかな」


  俺は夕凪と怜が夏休みだという事を思い出した。たまには休暇を取ってもいいなと考えた。デートと言うと夕凪はちょっと顔を赤らめた。まだ、つきあい出してから三週間を過ぎたばかりだ。夕凪は年齢=彼氏いない歴に該当するといっていた。そのせいか、ちょっと触ったりするだけで照れている。まあ、そこも可愛いのだが。


「デートかあ。じゃあ、一緒にカフェでも行こうよ」


「だな。夕凪が知っている店でいいぞ」


「そうだね。ラ・クレールっていうカフェがいいと思う。あそこのコーヒーが美味しいよ」


  俺は「決まりだな」と言って自室に向かう。カバンを取りに行く。夕凪も身支度をすると言って自分用の部屋に行った。着替えをして出かけるのに必要なものを用意してと俺は準備をするのだった。


  一時間ほどが経って夕凪の身支度ができたらしい。ベージュ色の透け感のあるブラウスにブラウンのこれまた透け感のあるロングスカートと大人っぽい格好で彼女はやってきた。バッグもブラウンの革製の小さなものだ。アクセサリーもつけている。銀製の繊細な葉をイメージしたものでお姉さんからの贈り物らしい。


「……なんか、いつもと違うな」


「そうかな。雄介さんのお母さんとうちのお姉ちゃんにこういう格好もした方がいいと言われたの」


「へえ。大人っぽくていいんじゃないか」


  そう言うと夕凪はちょっと照れ笑いの表情になる。メイクもしているらしく目立たない程度ではあるが。俺は前といい、大人の女性らしい雰囲気を醸し出している夕凪に胸が高鳴った。はっきり言ってファッションのことに関しては疎いが。それでも彼女が俺の事を異性として意識している事に嬉しさを感じるのだった。


  とりあえず、ラ・クレールというカフェまで歩いて行く事になる。暑いので夕凪は日傘をさしていた。帽子を被ろうと彼女がしたら母さんが無言で日傘を渡してきたのだ。仕方なく受け取って二人で向かう。


「……雄介さん。今日も暑いね」


「ああ。けどデートをするのは今回が初めてだな」


「うん。だから張り切っちゃった」


  そう言って夕凪はにっこりと笑う。こういう表情をすると年相応だ。俺はそんな事を思いながらてくてくと歩いた。といっても夕凪は慣れないサンダルを履いているからゆっくりとだが。さりげなく手を差し出した。夕凪は今度は躊躇うことなく自分のそれを乗せてくる。ぎゅっと握るとことさらゆっくりと歩いたのだった。


  ラ・クレールに着くと入り口のドアを開けて中に入った。カランカランとドアについたベルが鳴る。内装は落ち着いた雰囲気でレトロな感じだ。ラッパ型の蓄音機が置いてあったり椅子や机も飴色に輝いている。明かりも花の形をかたどったランプでおしゃれだし凝っているなと思う。


「……うん。やっぱり良いお店だわ」


「……夕凪は昔から知っていたのか?」


「ううん。お姉ちゃんがよく行っているお店でね。雄介さんとデートしたいって言ったら勧めてくれたの」


  へえと言うと奥から店員さんらしき女性が出てきた。エプロンをつけてカウンターにやってくる。


「……あら。いらっしゃいませ」


「こんにちは。あの。今、いいですか?」


「はい。ちょっとお待ちくださいね」


  店員さんはそう言うと伝票を取りに行ったらしい。俺は夕凪と窓際の席を選んでそこに座った。向かいあわせに座ると店員さんがメニュー表とお水が入ったコップ、おしぼりを持ってきてくれた。


「……どうぞ。メニューがお決まりになったらまたお呼びください」


「わかりました」


  俺が頷くと店員さんはにっこりと笑ってお辞儀をする。そうしてまたカウンターへと戻っていく。


「メニュー。何を頼むかもう決めたか?」


「うん。私はカフェオレとワッフルのセットにするよ」


「俺はシフォンケーキとアメリカンコーヒーのセットにしようかな」


  互いに頷きあって店員さんを呼んだ。オーダーが決まると店員さんは「わかりました」と言って厨房へと向かった。どうやらこのお店は店員さんの数が少ないらしい。蓄音機から懐かしいジャズの曲が流れていておしゃれではあるんだが。しばらくして俺と夕凪の頼んだものが運ばれてきた。


「……カフェオレとワッフルのセットとシフォンケーキとアメリカンのセットです」


「ありがとうございます」


  夕凪がお礼を言うと店員さんは微笑んで頷いてくれた。店員さんがカウンターに再び戻ると二人してカフェオレとアメリカンコーヒーのそれぞれ入ったカップを手に取った。飲んでみるとうまいと思う。夕凪もワッフルを一口大に切り分けて食べている。顔はご満悦という感じだ。俺もシフォンケーキをフォークで切り分けて食べてみる。ふわふわの食感と控えめな甘さがちょうど良い。気がついたら完食していた。夕凪もだが。お会計を済ませてラ・クレールを出た。ほとんど話はしていないが。二人とも大満足な初デートだった。

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