第13話
俺は戦いが終わると刀をカバーに仕舞う。
嵐月も人型からミニ龍の姿になった。一瞬で変化したのでちょっと驚いた。でも表情は崩さない。刀を手に歩き出す。フヨフヨ浮きながら嵐月も付いてきた。
「……嵐月。今の地縛霊だが。どう思う?」
『そうだな。あの時代であれば、そういう霊が出てもおかしくないだろう』
「だな。俺もそれは思うよ」
しばらく無言で歩き続けた。外はもう真っ暗だ。星が見えていて綺麗だなと思う。嵐月も首を上に上げて眺めていた。ふと立ち止まった。
「綺麗だな。嵐月」
『……ああ。星は遠い宇宙という空間で光り輝いているんだろう』
「そうだ。よく知っているな」
『バカにするな。天文学はお前の父君から少しは習ったんだぞ。星にも寿命があるくらいは知っているしな』
「へえ。俺、星に寿命があるまでは知らなかったな。嵐月、けっこう博識だよなあ」
本当に歓心して言うと嵐月はそっぽを向いた。ちょっと照れているらしい。
『雄介。夕凪さんの事だが。彼女は本気なのか?』
「だろうな。夕凪ちゃんは前世で呪いを解けなかったから今世でやり直そうと思っているんだろうと思う」
『……そうか』
嵐月は悲しげに瞼を閉じた。俺も遣る瀬ない気持ちになる。他に呪いを解く方法はないのだろうか。歩きながら考えたのだった。
自宅に帰ってくるともう六時半くらいの時間になっていた。母さんと父さんが心配そうに玄関で待ち構えている。
「……あ。雄介。お前なあ。風邪が治ってまだ間がないんだぞ。無茶はするな」
「そうよ。父さんも母さんもいつ帰ってくるかとヤキモキしてたんだからね」
両親に叱られた。俺は仕方ないと思って口を開いた。
「……ごめん。今後は気をつけるから」
「まったく。本当に気をつけようと思ってるの?」
「思ってます。あ、嵐月も一緒だから。無茶はしていないぞ」
「……本当か?」
父さんが疑わしげにこちらを見てくる。俺は答えに詰まった。父さんはこれ見よがしにため息をついた。
「仕方ないな。いいか。雄介。今日から三日間は悪霊退治は禁止だ。嵐月様もそのつもりでお願いしますよ」
『……分かりました。善処します』
「ならいいんだ。雄介もわかっているな?」
「……わかった。三日間はおとなしくしておくよ」
「よし。決まりね。父さんも雄介も疲れたでしょう。夕食にしましょうか」
この場を取りなすためか母さんが言った。俺と父さんは頷いた。
「そうだな。じゃあ、先に手を洗ってきなさい。雄介」
「はい。んじゃ、洗ってくるよ」
父さんと母さん、嵐月に言って洗面所に向かったのだった。
その後、俺は夕食を食べて自室に戻った。ベッドにダイブして大の字に寝転がる。ふうと息をついた。さっき、体温を測らせられた。母さんが強引に体温計を渡してきたのだ。仕方なく測ると三十七度五分あった。
母さんから「今日は軽くお風呂に入ってもう寝なさい!!」と怒られた。なので小一時間もしない程度で風呂に入りパジャマ代わりのシャツとズボンに着替えた。で、今に至る。布団をめくって中に入った。もしかすると熱が高くなっているかもな。そう思いながら瞼を閉じた。気がついたら寝ていたのだった--。
翌日、朝の八時に目を覚ました。けど寝汗をかいているし体がだるいしで気分はすこぶる良くない。しょうがない。俺はもそもそと起き上がる。パジャマ代わりのシャツとズボン姿のままでベッドから出た。自室から台所に向かった。だが母さんと父さんがいない。キョロキョロと目線で探したが。この部屋にはいないようだ。ふと机の上の置き手紙を見つける。それには母さんのものらしき字でこう書いてあった。
<雄介へ
今日は母さんも用事があってね。たぶん、あんたが起きた頃には父さんも母さんもいないだろうと思うわ。
実は昨日の夜に遠縁の親戚から電話があってね。はとこの怜ちゃん家のお祖父ちゃんが病気で入院したんですって。
怜ちゃん家のおじさんもおばさんもお祖父ちゃんの付き添いで家にいないからね。それで父さんと母さんで怜ちゃん家にいるの。
怜ちゃん一人でも留守番はできるんだけど。ただ、この子も風邪をひいているらしくて。仕方ないから看病も兼ねて父さんと母さんは怜ちゃん家にいます。本当に雄介が大変な時にごめんね。
とりあえず、冷蔵庫にカレーや昨日の夕食の残りがあるから。後、お粥も朝方に作っておいたのよ。食べておいてね。
じゃあ、くれぐれも気をつけてね。
母さんより>
俺は何だと?とショックを受けた。まさか、怜の奴ときたらお祖父ちゃんが病気の時に風邪をひいているとは。呆れて二の句が出ない。でも母さんは気を使ってお粥も作り置きしてくれているし。俺はふらふらと冷蔵庫に行き、夕食の残りが入ったお皿を出した。ガスコンロには鍋がある。中にはお粥があった。量もあるので今日一日分にはなるだろう。そう思いつつ、残りが入った皿を電子レンジで温める。温まったら出して机の上に置く。お粥も食器棚にあったお碗によそって置いた。
「……いただきます」
スプーンとお箸を用意してお粥と夕食の残りを食べた。昨日の夕食はクリームシチューだった。合うのかと思いながら口に運ぶ。意外といける。パクパクと食べていたらお碗のお粥もシチューも空になっていた。腹は満たされたのでマグカップに水を入れて残っていたクリニックのお薬を飲んだ。風邪用の薬は苦いが。良薬は口に苦しというしな。そう思いつつ、ほうと息をついたのだった。
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