第7話

   ストーカー男を倒して自宅に戻った。


  月澪様と月華ちゃんも一緒だ。帰ると母さんがいる。俺の手に抱えられた月澪様を見てちょっと目を見開いた。月華ちゃんも肩に乗っているので余計にだ。母さんも俺と同じように霊感がある。嵐月は知っているが。それでも奴のお袋さんと妹は初対面に近い。驚くのも無理はなかった。


「……あ。雄介。そちらの女龍様は……」


「嵐月のお袋さんだよ。んで肩に乗っているのが妹さんの月華ちゃん」


「ええっ。嵐月様のお母様と妹さんなの。は、初めまして」


  慌てて母さんは頭を下げた。お袋さんもとい、月澪様はちょっと困ったように苦笑する。


『……雄介さんの母君かや。初めまして。わたくしは月澪と申す。以後お見知りおきを』


「はい。私の方こそよろしくお願いします」


『ふふ。そう畏まらずともよいぞえ。確かお名前は夕子さんとおっしゃったかや』


「えっと。そうです」


『では。夕子さんと呼ばせてもらうからの。今日は嵐月が心配であった故。それでこちらに参ったのじゃ』


  母さんはそうなんですかと言う。かなり表情は和らいだが。それでも緊張はしているようだ。


「月澪様。うちの雄介はご迷惑をおかけしていないでしょうか?」


『迷惑はかけていないぞえ。夕子さんは心配性じゃな』


「……そりゃあ心配はします。雄介はお祖父ちゃんに似て無茶をよくしますから」


  母さんがはっきり言うと月澪様はおほほっと声を上げて笑った。


『それはそうじゃの。祖父君も無茶をよくするので守護が大変だったと嵐月がよく愚痴を言っておった』


『……母上』


  月澪様が言うと恥ずかしそうに嵐月が呼びかけた。母さんも月華ちゃんもはにかんだ笑顔を浮かべた。


「月華様。雄介を守ってくださったようですね。ありがとうございます」


『いえ。私は大した事はしていません。お礼はいいですよ』


  母さんと月華ちゃんはお互いに笑って楽しそうだ。月澪様はそれを見ると目を細めた。表情は優しくて俺は長い時間を生きる龍は不思議だなと思う。まるでお祖母ちゃんが孫を見守る感じだ。あ、さすがに口に出して言ったら母さんと月澪様にWパンチを食らう。


『……雄介。ちょっとすまないが。腹が減ったんだが』


「あ。そうなのか。そういや、もう夕方だもんな」


「本当ねえ。じゃあ、夕食を用意するわ。月澪様と月華様、嵐月様も召し上がりますか?」


『そうじゃのお。わたくしは良いが。月華と嵐月はどうする?』


  嵐月が言えば、俺が答える。母さんも応じて月澪様に尋ねて。さらに月華ちゃん達に聞いて。月華ちゃんはううむと考えている。


『……そうですねえ。私は食べたいですけど。兄様はどうしますか?』


『そうだなあ。ではご馳走になるか』


「……わかりました。では龍神様方のお食事も用意しておきますね。雄介、手伝ってちょうだい」


「へいへい。わかったよ」


「じゃあ、八時前にはできると思いますから。待っていてくださいね」


  母さんが言うと月澪様がすまぬのと苦笑する。俺はいいですよと言って玄関を後にした。月澪様と月華ちゃん、嵐月は人型になり俺の部屋で待っていると言って上がったのだった。


  約束通り、八時前になって夕食の用意ができた。俺は月澪様一家の分の食事をお盆に乗せて自室に持っていく。母さんが作ってくれたのは三角形のお握り(高菜と昆布入り)と昆布だしと椎茸のだしで作ったお澄まし汁、沢庵漬けだ。後、カボチャの煮物もある。龍神は肉や魚、乳製品など動物性の食品は一切受け付けないらしい。なので母さんは俺と一緒に考えて野菜オンリーのメニューにした。気に入ってくれるといいのだが。

  二階に上がり自室のドアの前で声をかけた。すると嵐月の声で返事があった。片手でお盆を持ってドアをゆっくりと開ける。部屋のカーペットの上でちょこんと月華ちゃんが座り月澪様も隣で寛いでいた。嵐月も俺のベッドの上に座っている。


「あの。夕食を持ってきたんだが」


  そう言うと嵐月がこちらに気づいた。立ち上がるとすまないなと苦笑した。


「ああ。持ってきてくれたのか。うまそうだな」


「……まあ。母さんのお手製ではあるが。お澄まし汁は俺が作った。味付けは薄いかもな」


「へえ。雄介も手伝ったのか。じゃあ、今から食べてみるよ」


  仕方ないので頷く。俺は部屋に入ると机の上にお盆を置いた。月澪様と月華ちゃんの前にお握りなどが盛り付けられたお皿を置いていく。三名分だがそれらを全部置き終える。月澪様と月華ちゃんは嬉しそうだ。


「……ほお。いい香りがするのう」


「はい。美味しそうです」


  嵐月がカーペットの上に座ると皆でいただきますと手を合わせた。俺は失礼しますと言って部屋を出た。あくまで神様だ。お食事の時は人は同席してはいけない。見るのは失礼になるからだ。それを思い出しつつ一階に下りた。母さんにお盆を返しに台所へ向かったのだった。


「……雄介。お食事を持っていってくれたのね」


「うん。月澪様達、美味しそうと言っていたぞ」


「そう。それは良かった」


  ほっとしたように母さんは言った。俺もいただきますと言ってお箸を持つ。今日は炊き込みごはんとお味噌汁、沢庵漬け、きんぴらごぼうだ。口に運んで味を噛み締めたのだった。

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