第18話

   その後、はとこの怜の体調が快方に向かったと万理江さんから連絡があった。


  俺の父さんと母さんも怜が元気になってきたと聞いて一安心だと言っている。夕凪も我が事のように喜んでいた。父さんと母さんはこの日の昼には帰ってくる。俺は二人を玄関にて出迎えた。


「……お帰り。父さん、母さん」


「ああ。ただいま」


「やっと怜が目を覚ましたって万理江さんが言ってたよ」


  俺が言うと母さんが頷いた。


「うん。そうなのよ。怜ちゃんの熱も下がって万理江さんも安心していたわ」


「ひとまずは良かったよな」


「本当よ。今まで留守にしてごめんね。雄介」


  俺はいいってと首を横に振った。父さんと母さんは苦笑する。


「それよりも雄介。お腹減っているだろ。お寿司を買ってきたから一緒に食べようか」


「え。マジ?」


「ああ。お前の好きなマグロとカンパチがあるぞ」


  父さんの言葉に俺は嬉しくなる。マグロとカンパチは確かに好物だからだ。こうして怜の回復祝いと爺ちゃんの退院祝いも兼ねて俺はお寿司に舌づつみを打ったのだった。


  翌日、俺は嵐月と夕凪の三人で悪霊退治を再開していた。今回の相手は中年のおっちゃんだ。しかも二人いる。なかなか、渋とかった。


「……雄介。一人はお前に任せるぞ!」


「わかった。嵐月と夕凪ちゃんはもう一人を頼む!」


  俺は夕凪がくれたお札でおっちゃん幽霊に攻撃を仕掛けた。それは雷撃が出るお札らしい。


「……雷神に請い願う。かの者を清め給え。払い給え!」


『ちぇっ。相手をしてくれるんだったら若いお姉ちゃんの方がいいぞ!』


「……うっさい!!おとなしく除霊されろ!!」


  俺はムカついて思いっきり強い雷撃を放っていた。それはおっちゃん幽霊に大ダメージを与える。黒こげになっておっちゃん幽霊は伸びているが。哀れとは思わなかった。


『……うう』


  呻き声を上げつつも気を失っていた。俺はゆっくり近づくと刀を抜いておっちゃん幽霊の額に当てる。夕凪と一緒に編み出した新しい浄霊のやり方だ。


「……日の神に願わむ。かの者に光と救いを与え給え」


  そう言うとぽうと白い球体がたくさん出てくる。少しずつおっちゃん幽霊の体は薄くなっていく。気がついたら完全に空気の中に溶けていっていた。俺はもう一人のおっちゃん幽霊の元に行ったのだった。


  夕凪と嵐月の方へ向かうとこちらは苦戦しているようだ。俺はズボンのポケットからもう一枚のお札を出すともう一人のおっちゃん幽霊めがけて水の術を繰り出した。


「水神に請い願う。かの者を捕らえ給え!!」


『……若いお姉ちゃんなのに。なんで野郎がいるんだよ!!』


「……お前もか。うっさい。さっきのおっちゃんとお前は類友かよ?!」


『違う。あいつと一緒にしないでくれ!』


「……雄介。霊の言う事に何反応しているんだ」


  嵐月が呆れたように言う。夕凪はおかしいのか変な顔になっている。


「……おっちゃん。とりあえず、成仏してくれ。その方が楽だから」


『……そうかもな。水の術ってえの。これのせいで動けねえ。兄ちゃん。成仏させてくれ』


  水の触手みたいなので宙吊りになっているおっちゃんはマヌケではある。それでも笑わずに俺は刀をさっきのおっちゃんAと似た感じで胸元に当てた。


「……日の神に願わむ。かの者に光と救いを与え給え」


『……あったかい。これが神様の力か』


  おっちゃんはぽつりと呟いてすうと光と一緒に消えていった。とりあえず、浄霊は成功したようだ。夕凪が笑顔でこちらにやってきた。


「いやー。雄介さん。さっきのおっちゃん達。面白かったねえ」


「……まあ。けどなんか一挙手一投足にムカッときたな」


「そうかなあ。けど私がズボンだったから「惜しい」とか言ってたけど」


  俺はそれを聞いて余計に頬がひくりとなった。やっぱりおっちゃん達、類友じゃねえかよ。仲が良いのか悪いのかよくわからん。俺はため息をついて髪をかき混ぜた。


「……雄介。あの男達はふざけた事ばかり言っていたな」


「……ああ。この場に月華ちゃんと月澪様がいなくて良かったよ」


「そうだな。あいつら、母上と妹に色目を使いそうだからな」


  嵐月は苦笑しながら言った。夕凪は余計にお腹を抱えて笑い出した。


「……ぷっ。くくっ。やっぱりおっちゃん達って雄介さんと似てるかも」


「……どこがだよ」


「だって。若いお姉ちゃんがいるといいとか言ってるし。雄介さんもこの間、悪霊が美人だからって見惚れてたって嵐月様から聞いたよ」


  俺は夕凪の言葉に固まった。嵐月をじとっと見る。奴は気まずいのか目を逸らしたが。


「……嵐月。何言っちゃってくれてんだよ。俺のキャパシティーがヤバいことになってんだが?!」


「……悪かったって。でも事実だろう」


「だからって。普通、言うかよ!!」


  俺は気がつけば、嵐月の服の袖を握っていた。奴は余計に気まずそうにしている。夕凪は相変わらず笑っているし嵐月も苦々しい表情をしているしで。俺は「ちっきしょー!」と大声で叫んだのだった。

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