第5話 あいりすと由花
「本当なのか……?」
俺は何か確認するように呟いた。
すると御巫さんは俺の目の前にしゃがみ、俺の目を見る。
「そうだよ、私はしぃちゃんの一番の推しだったあいりす……もっとも、今はちゃんと本名で読んでほしいけどね」
苦笑しながら語るその姿。間違いない。あのあいりすだ
思い出がずっと更新されると思っていた
ずっと大好きだった
二度と会えないと思っていた
その、
ぽたり、ぽたりと涙が出てくる。
嬉しい
また会えた
自らの感情が入り乱れ、涙が止まらない
「あはは……驚いた?って言っても私も驚いたけどね、転校して初めてのクラスに入ったら、しぃくんがいたんだもの」
「ばか……ばかばか……なんで……なんで急にいなくなったのさ……」
声にならない叫び。整理できない
「ごめんね……でも、もう一度会えてよかったよ……しぃくん」
御巫さんの目にも、一筋の涙が見えた気がした。
お互いの涙が落ち着き、俺も冷静さを取り戻した。
「さっきはごめん……見苦しいもの見せちゃって……」
「ううん……大丈夫だよ、しぃくん」
しぃくん……この呼び方で俺を呼ぶのはあいりすしかいない。
この呼び方をしているというのが、一番の証拠だろう。
「でもなんで御巫さんは……」
ここに?と言おうとしたとき、あたまにポンと手が乗せられた。
「しぃくん、せっかくだから由花って下の名前で呼んでほしいな」
「ゆか……由花……」
「うん、よく言えました」
そういいながら由花は俺の頭をなでる。
まるで姉と弟のようだ、だがしかし悪い気はしない。
「それで……由花はどうしてここに……?」
「いろいろあってね……前の学校を転校することになったの。それでね……」
そう語る由花の表情は、どこか寂し気で、悲しそうだった。
そして少しの沈黙が流れた。
永遠にこの時が続いてほしいと思いつつも時計を見ると、もうすぐ昼休みの時間になりそうだった
「ほんとはもっとこうしていたいけど……そろそろお昼休みになるね……」
由花も同じことに気が付いたのだろう、頭から手を離すと片づけの準備に入り始めた
「本当だ……由花はいつも学食で食べるの?」
「うーん……まちまちかなぁ……今日は学食かなって。しぃくんも来る?」
学食か……俺はいつも弁当持参なのでなかなか縁のない場所だ……
というか待て、俺と由花は他人から見たら関係ない人間同士である。しかも由花は今クラスカーストの中でも上位である。
もし一緒にいるところを見られたら……まずいな。
「あの……さ、由花」
「どうしたの?しぃくん?」
「しばらくは……俺と由花の関係性は黙っていたほうがいいかもしれないんだ。だから外ではさ……」
「わかってるよ……外では柚木君と私、御巫由花はただのクラスメイト……だよね?」
「そうだね……本当はもっと話したいことだらけだし……ずっと一緒にいたいけど」
「そこはまぁ……LINを使お?」
そういうと由花はスマホをいじる
【由花】こっちなら……誰にも見られないからね♬
【YS】そうだね
俺も返信すると、向こうにいる由花が少し笑った気がした。
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