第11話 観覧車

「大変申し訳ございませんでした。」


深々と謝罪するクルーの皆さんに対応しつつ、俺と由花はサブノーチカを出る。この辺の対応は俺より由花のほうが得意なので俺は後ろで縮こまるが。


サブノーチカを出るとあたりはすっかり暗くなっていた。どうやらそこそこ時間がたっていたらしい。


「ねぇしぃくん」

不意に由花が話しかけてきた。

「どうした?」

「あのね、さっき実はこんなのをもらったの」


由花は俺に手に持っているものを見せる。そこには

{アトラクションファストパス}と書かれたものが握られていた。


「私たちアトラクションにそこそこ長いこと閉じ込められてたらしくて……優先的に何でも乗せてくれるって」

なるほど、さすがに……対応はしっかりしているな


「じゃあ……最後にある乗り物に乗りたいんだが……一緒に行かないか?」


「うん、たぶん私も同じこと考えているかもしれない」

そして、俺たちは少し歩き始める



たどり着いたのは大観覧車

この観覧車は国内でも有数の大きさを誇り、一周15分もかかるという壮大なアトラクションである。

当然、この時間になるとカップルなどでごった返すが、そこはさきほどのファストパスで優先的に入場させてもらった。


観覧車のゴンドラには、俺と由花が向かい合って座った。


「それでは、行ってらっしゃい!」

係員のお姉さんが扉を閉め、俺らを見送る。

長い、永い、二人きりの時間が始まった。










暫しの無言、口を開いたのは


「あのさ……しぃくん」


由花だった。

「今日さ……すっっごく楽しかった!」

虹のような笑顔を見せる由花に


「そっか……ならよかった」

俺はほっと息をなでおろす


「でさ……しぃくん」

由花が姿勢を正し、俺を見る

俺は目で続けるよう送った

「しぃくんさ……何か隠してない?」


「隠し事……?」

正直に言えば、ある

だが、これは由花に知ってほしくない事だ。


「いや……何も……「嘘!」」


思わず横を向いて否定しようとしたとき、珍しく語気を強める由花に俺は少したじろぐ。

由花は一息ため息を入れると、俺の横に座る。


「しぃくん、間違ってたらごめんね」


やめろ


「もしかしてさ、しぃくんってさ」


やめてくれ

俺はとっさに目線を切る


「恋愛で……いやなことがあった?」


図星だ。どうして……


「う、ううん……「だから嘘!」」


再びの語気の強さにたじろぐ。


「しぃくんは……嘘をつくとき、目線をいつも切るの……」

俺の無言のまま、由花は話を続ける。

「ねぇ……私たちはもう立派なカップルなんだよ?彼女の事を信頼していいんだよ?」

これは……隠し通せないな


「わかった……少し重い話になるし……つらい話になるかもしれないが……それでもいいか?」


俺の問いに、由花は俺の手を握ることで答えた。


そして俺は、過去のとある事件について、語り始めた。

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