第10話 ハプニング

今話はかなり甘いです。無糖の紅茶もしくはコーヒーを準備して読むことをお勧めします

















「お客様にお知らせいたします。ただいま当アトラクションは安全装置が作動したため停止しております。皆様そのままでお待ちください。なお……」


アトラクションが止まって数分、いまだ動く気配はない。


もし、このまま動かなければ……今回のデートは破綻してしまう。

それはまずい……非常にまずい

もし失敗して……悪い印象を与えてしまったら……

きっと俺は……





「しぃくん……大丈夫?」


由花が心配そうな顔で俺を見る。

……しまった、不安を心配させてしまうなんて……

「大丈夫……由花は?」


俺も大事な彼女の心配をする。本来なら……先に聞くべきなのは承知の上だ。


「大丈夫だよ……だけど」

「だけど?」


ん?と俺は首をひねる

すると由花は立ち上がり








俺の上に向き合って座ったのである

足に由花の軽い重さがかかる。

下腹部に、胸に、温かく柔らかいものが接する


まずい……心臓が破裂しそうだ


「二人きりで……こんな密室なんだから……」

そして、デレる時に見せる……小悪魔みたいな笑顔をした由花の顔が、俺の顔のすぐ前に見える。

「しぃくん……我慢しなくていいんだよ?」


その言葉を聞いた俺の脳内で


理性が吹っ飛ぶ音がした。


俺は左腕を由花の腰に回し抱え、右腕で由花を引き寄せる

俺と由花の顔が限りなく近くで見える。


「なぁ……由花」

俺は、大好きで大切な彼女の名前を今一度呼んだ

「うん……しぃくん」


そして、俺は由花の唇に、そっと口づけをした

……ああ。今この瞬間が、ずっと続けばいいのに……

唇を離すと、今度は由花が俺の頭に手をまわし、引き寄せる

「しぃくん……ずっと一緒だよ」


そして、再び唇を合わせる。


そのキスは……とても甘い味がした

これが恋の味……なのだろうか


そして、由花を強く、強く抱きしめる。


やっとつかんだ幸せなんだ

夢のような、蕩けてしまいそうなこの甘い時間を

俺と由花は強く、強く噛み締めた



「お待たせしました。安全が確認されましたのでただいま運航を再開いたします。お客様にはご迷惑をおかけいたしました」

お詫びを感じるナレーションが、艦内に響く

そして、潜水艇が動き出す。


「船……動いちゃったね」

「ああ……そうだな」

由花は俺から降りて、服を整える。

そして……


「しぃくん見て!おっきいイカが!」


いつもの由花に戻った。

「ああ、そうだな」


……さっきの出来事は夢じゃない、現実なんだ


俺はこの思い出を、深く胸にしまい込んだ。

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