第三章

第14話 一事が万事

深い思い出となった遊園地デートの次の日


朝、登校すると校内が騒がしかった


「ねぇ聞いた?御巫さんが男と一緒に歩いてたって話」

「聞いた聞いた、しかも割と仲がよさそうってのも」


はい?誰かに見られてたか?

俺は慌てて、かつ務めて冷静にLINで由花に連絡を取る……が返信がない


しばらくして由花が登校すると


「御巫さん昨日男の人と歩いてたって話聞いたんだけどもしかして彼氏?」

「私も聞いた聞いた、御巫さんの彼氏って……気になる!」

女子らがマスコミのように集まり質問攻めにし始めた。


俺は恐る恐る聞き耳を立てる


「昨日……?ああ!あれはだよ~♪」

由花は暫し思い返すと、真実を隠しているとは微塵も見えない感じで答える

「従兄かぁ……御巫さんって従兄と仲いいの?」


「仲はいいよ、ただつい私を甘えさせてる来るのが……」


そういうと集団に笑いが起きる

ひとまず、危機は脱出したようだ。












「ほい、それじゃあ中間試験の時間割を発表するぞー!」


朝のHRが始まり、大羽先生がそう述べると、クラス中がざわめき立つ


「頼む……コミュ英と数学を同時にしないでくれ……」

「国語系三連続は嫌だ……」


そんな声が聞こえてくるのも一種の風物詩だろう。


「今回の時間割は……これだ!」

黒板にプリントが一枚張られると、待ってましたといわんばかりに皆が集まりメモを取る。


俺も見に行くと、不意に手に何か柔らかい感触が当たった

ちらりと横を見ると、由花がこっそり俺の手を握っていた。


確かに俺と由花はクラス最後方の席なので前に行くのも遅く、他人から見られることはないが……


(今後ろ向かれたら終わるぞ……)

俺は内心、気が気じゃなかった


幸い誰もこちらを向くことはなく、由花も手を放してくれたので問題はなかったが……


時間割のほうは、個人的に不満はない

唯、苦手科目である数学が二種とも同じ日にかぶっているのがすごい怖い


(さて……どうしたものか……)


勉強計画を立てながら頭をひねっていると、LINの通知が来ていた


【由花】ねぇねぇしぃくん、しぃくんってどれぐらいの成績なの?

【YS】どれぐらい……といわれてもなぁ


俺は少し考え込む。


【YS】一応去年学年末でいえばだけど……総合11位だな……

【由花】すっごい!今度勉強教えて!

【YS】いいけど……俺数学は教えられないぞ


そう、俺は数学だけは本当に苦手だ。

総合11位も、数学がかなり足を引っ張ていたからだ。

【由花】大丈夫!私数学は大得意だから!逆に教えるね!


由花、数学得意なんだな……


そんなことを思っていると、クラスの同級生が数人、俺のもとに集まってきた。確か塚地と巾木と……三家本だっけか


「なぁ柚木……」

塚地が申し訳なさそうに口を開く


「ああ、塾だろ?わかってるって、また追って日程は連絡する……ってか回ってくると思うから」

その答えに三人とも大きくうなずく

「すまんな、よろしく頼む……」

三家本が申し訳ないという感じで俺を拝む

俺は仏じゃねぇっての……


この高校の伝統……というか委員会のようなものに、塾制度というものがある。

まぁ簡単に言えば得意科目の教えあいだ。それぞれの得意科目を他人に教え、全体の学力を上げる。

むろん参加は自由だし、受講科目も好きに選べる

因みに塾制度の教える側は、本人の気合+学力で打診がくる。

そして選ばれた生徒はメンバーズと呼ばれる組織に属することになる。




「今回も柚木は国語系か?」

「いや……今回は古典と世界史かな」


去年は一時期を除いて国語系を担当していたが、二年生になり試験が現代文と古典・漢文の三種類に分かれたので、俺はその中でも得意な古典を持つことになった。

そして、二年からの新科目である世界史と日本史は、一学期中間という未だどうなるかわからないという性質上、現メンバーの何人かで持ち回りとなったのだ。


「そうか……お前の解説わかりやすくて評判だったんだがなぁ……」


「ありがとな……まぁ別に現代文も俺は補助で入るつもりだし……大丈夫だぞ」


「あはは……助かる。ところで柚木」

三家本が俺の顔を覗き込みながら話を続ける


「お前、だいぶ元に戻ってきたな。」

三家本のその言葉に、塚地と巾木も大きくうなずく


「まだ……傷がいえたわけじゃねぇけどな」

最愛の人に裏切られたという傷

きっと、この傷はずっと残り続けるだろう。


でもせめて……由花の前では元気でいないとな



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