推しが卒業した。そして転校生が来た

不知火綴

第一章 

第1話 推しと卒業

チャイムが鳴り、学生が帰宅し始める。

どこにでもいるしがない高校生、柚月詩音ゆづきしおんも荷物をまとめ、足早に教室を出る。


周りでは高校生らがグループのように集まり喋ったり、戯れている。

こういうときにぼっちは便利である。誰にも縛られずに帰ることができるからである。


高校を出て駅まで歩く途中、携帯からピロンと通知の音が鳴った。

見るとツインターからの通知であった。通知をタップすると可愛い女性の写真と共にいるよ〜という文字が。

「行くかぁ……今日も!」





電車に揺られ、1時間ほど

このまま乗っていれば家に着く……しかし俺は途中で降り、階段を登り、とある建物の前に立つ


〈メイドカフェ めいどるちぇ〉


俺は意気揚々に扉を開ける


「おかえりなさいませ〜!」

店内に可愛いメイドさんの声が響く。


そう、俺は何を隠そうメイドカフェにハマっているのだ。


「あっしぃくんおかえり〜!こっちこっち!」


手を振り俺を案内してくれるメイドさん、そのメイドこそが俺が推してやまないこのお店のメイド、あいりすである。

黒く長い髪を器用に結い合わせ、猫耳のように仕上げている。


「おはよ〜今日もあいりすは可愛いなぁ」


「えへへ……今日の髪の毛良くない?いい感じにアレンジできたの〜!」


見たままのことをつたえると照れるあいりす

いや、本当に可愛いな……言葉にできないぐらい


「何飲む〜?メニューいる?」

「ううん大丈夫、オレンジジュースとチェキを1枚、あいりすツーで!」

「やったー!それじゃあ準備してくるね」


そう言って一旦キッチンに下がるあいりす


ハマり始めて1年ぐらい……そろそろあいりすも1周年かぁ……


そんな事を考えながら待っているとあいりすが飲み物持ってきてくれった

「それじゃ、いつものやつやるよー!」


「美味しくなーれ あいりっしゅ♩」


このおまじないするといつも笑顔になるのは俺だけだろうか。


「しぃくんは今日も学校帰り?」


今の時間はあいりすのワンオペということもありカウンターのみの営業だが、今は他のご主人やお嬢がいないこともあり、あいりすを独占できる


「そだよー、そういえば今日はもう少ししたらねくろさんがきてくれるんだっけ」


「うんそうだよ、ねくろさん今日はどんな髪型にしてくるんだろうね」


ねくろさんはあいりすより2年ほど先輩のメイドさんらしい。

自分が初めてめいどるちぇにきた時にもいたのでねくろさんも付き合いが長い。


「うーん……無難にツインテールとか?」

「私はサイドポニーかなぁ……って」

「どうだろうねぇ……」


それからしばらく俺たちは他愛のない話などしていた。


「そうだしぃくん、チェキ撮らない?」

「いいけど……ねくろさん待ってからにしてもいいよ?」


チェキ機はスマートフォンのように中外共にカメラがあるわけではなく、外側にしかない。なので基本は誰かにとってもらうのだが……


「ううん、せっかくだしこの画角で撮ろー!」


あいりすは自撮りをするときのようにチェキ機を構える


ポーズをとるとフラッシュが焚かれ、チェキが上から出てくる


「珍しい画角だからうまく映るといいけど……」

チェキは時間を置かないと写真が写らない。

「大丈夫だよー。写らなかったらもう一回撮ればいいしねっ」


しばらくするとチェキに画像が浮かんできた。見た感じ綺麗に撮れている


「おー、綺麗に写ってる」

「それじゃあお絵描きするね〜」


あいりすは油性ペンを使ってお絵描きをしていく


数分後

「できたー!はい、どーぞ」


渡されたのは綺麗にお絵描きがされたチェキ


「やったー!」

俺はそれを丁寧にチェキファイルにしまう


「このファイルももうすぐ埋まるね」

一年、このファイルにもチェキがたくさん溜まってきた。残りは後1枠

「これはあいりすの周年かな」


「そう……だね♩」


気のせいだろうか、一瞬顔が暗くなったような気がするが…


「ねぇあい……「しぃくんそろそろ時間だけどどうする〜?」


おっと、もうそんな時間か

「お出かけする〜」


暗い顔はまぁ気のせいか



「それじゃーねー!」


学校が終わって、、推しに癒される。

それがずっと続くと、この時は思っていた。





深夜0時ぐらいだろうか。アラームをセットして寝る準備を整えているとスマホから通知音がした。

あいりすのおきゅおわ投稿か、

そんなことを思いながらツインターを開く








【大切なご報告】


私、あいりすは昨日付でめいどるちぇを卒業しました。

最後に何もいえなくてごめんなさい。

一年という短い時間だったけどお給仕している時は楽しかったです。

それじゃあ、バイバイ







俺は気を失った。

幸せが、無くなった瞬間だった。

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