第3話 案内
それから数日が経った。御巫さんの周りには結構な割合で人が集まるのであれ以来一度も話す機会はない。
初日こそ波があったがそれも一時、今は平穏な時が戻ってきた。
俺からしたらそれ以上にありがたいことはない。
今日も今日とて俺の日常は変わらない。
朝学校に来て授業を受け
放課は準備をしつつ携帯をいじって
お昼は適当に食べ
授業が終われば帰宅して
夕飯を適当に作って食べてゲームして、寝る
あれからメイドカフェには行っていない。
未だあいりすが卒業した穴は埋まらない
ツインターのアカウントも消えていた。
次の授業まで時間はある。
「会いたいな……」
俺はチェキファイルを見ながらぼそっとそんなことをつぶやいた。
もっとも、呟いたところで返事なんて来ない。
御巫さんが来たとき、あいりすと重ね合わせてしまったのは、きっと卒業直後だったのだからだろう。
確かに何もかも似ているが……それはきっと無意識に重ねてるだけだろう。めいどるちぇのあいりすと御巫さんは別人なんだ。
そんなこんなで思い出に浸っていると
「あれ……柚木くん?」
目線を外すと御巫さんがいた。
不意にかけられた言葉に俺は驚き、慌ててチェキファイルを閉じる
「御巫さん⁉ど……どうしたの?」
「柚木君驚きすぎだってば……」
俺の驚きぶりに苦笑する御巫さん。
仕方ないだろ、女性とこうやって話すのはこの間以来なんだから……
「実はね……次の移動教室の場所がわからなくて……」
なるほど、手には次の時間の授業の教科書らしきものを持っている。
「あー……次選択か……御巫さんは……やっぱり日本史か世界史?」
うちの学校は少し特殊だ
社会科目はほぼ完全な選択制であり、二年時から定番の日本史や世界史だけでなく倫理や地理、政治経済も履修できるのである。
ほぼ……というのは一年時に世界史Aと現代社会だけは必ず全員が受けるためである。
といってもやはり基本は日本史か世界史が中心であり、倫理や政治経済はあまり選択する人がいない。
俺がとっている地理なんて俺以外に選択者がいないのが実情である。だがまぁそれでも授業をやってくれる分ありがたいんだが……
俺の問いかけに御巫さんは首を振る。
「ううん、地理なんだ」
マジか……いやマジか
「マジか……」
思わず声が出る。
「えっ……何か私柚木君にいやなこと言った⁉」
焦る御巫さん
「あー……ううん、大丈夫……大丈夫」
俺は力なく否定する。
さようなら……自由な授業よ……
俺はそんなことを考えながら気持ちを切り替える。
「御巫さん、ついてきて、案内する」
地理の教室はまぁまぁ遠い。
具体的には階段を上り、長い渡り廊下を渡り、また階段を下り、そして上る
「柚木君ってさ……」
不意に御巫さんが俺に声をかける
「ん?どうした?」
「何か趣味とかある?実は柚木君だけなかなか話す機会がなくて……」
趣味……趣味かぁ……
一瞬メイドカフェが思い浮かんだが、こんなことを言ったら引かれるのは避けられない。
「しいていえばゲームとか……かなぁ」
そう、ゲーム。ゲームならまぁ男子高校生らしいだろう。
「へー、どんなゲームやるの?」
困った、関門その2である
下手な回答をすればとても引かれること間違いないだろう。
「マニアックだけど……農業したりするゲームとか……お米作るゲームとかかなぁ」
我ながらマニアックなチョイスである。やはりここは今はやりの剣騎士とか戦場シリーズみたいなバトロワ系のほうがいいのだろうか
すると、御巫さんの足が止まる。
やっべ……なんかまずいこと言ったか?
「柚木君……もしかしてそれって……農業クラフターズとか米作りのお姫さまとか?」
「そ……そうだけど……何かまずかったか……?」
「あ……ごめんね、別にそんなのじゃないんだけど……私もやってるからさ。ほら……あんまりマニアックすぎてやってる人他に見なかったから」
そういいながら御巫さんは笑顔を見せる。
「えっ御巫さんも⁉どれぐらい⁉」
マジか、あのゲームらなんてマニアックだぞ……
「軽く2000時間ぐらい……かな?」
本日何度目かのマジか、である
「に……にせんじかん……」
「ついやりこんじゃってね……」
苦笑いしか出ない御巫さん。
やべぇ……いろいろききたすぎる。
がしかしおそらくここで話してたら間に合わない
「と……とりあえず移動再開しようか」
「そ……そうだね……」
なんというか、遠い存在な御巫さんが割と近くまで来た気がする。
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