16 魔導力ランク判定
翌月。
2学期最終日は、年に1回の魔導力判定の日だった。
結果として、私・アイザック・ロニーはSランクに。
「な、なんと、2ランクも上がるとは……!!」
「1学年にSランクが5人というのも、快挙です!!」
私と
「どんなセコい手を使ったの!?」
ランク判定のあと、息をまいて私に怒鳴り散らしてきたのは、もちろん
「なんのこと?」
「Bランクから1年でSランクに上がるなんて、ありえない! あのヨキオット人からなにを仕込まれたの!?」
「あなたが私をいじめる画策をしてるあいだに、まじめに魔導術の訓練をしてただけよ。なにもおかしなことはしてない」
「嘘!!」
「ねぇ、私がSランクに上がったからって、なに? あなたに関係ある?」
「…………っっっ!!」
本心を伝えると、
「あ、藍梨のくせに、生意気な口きくな!!」
「私のことが嫌いなのに、どうしていつも私に絡んでくるの?」
だんだんと、私の気持ちも、言葉も、ヒートアップする。
「私は、あなたに関心がないの。だからもう、話しかけないで」
ようやく、言えた。前世の頃からずっと、言いたかったこと。
しかし、次の瞬間。
「なに泣いてるの……」
「わ、わた、私、王子に、見離されそうでっ……!
それで、不安になって、藍梨がSランクになったら取られちゃうんじゃないかって……」
今度は、泣き落とし? 本当に、何がしたいのかわからない。
ただ、見ていると本気で泣いているようにも思える。ここに来て初めて、ピンチに追いやられていることを実感したのかもしれない。
「藍梨はいつも、なんでも持ってる……私が持てないもの、簡単に持ってる!!」
「……でもあなたはいつもそれを、横から攫っていったじゃない?」
「それはっ……! 私も同じものが、欲しくて……」
その言葉に私は、呆れはてた。
ワガママを押し通していた子どもの頃と、
「おかしいじゃない! 双子なのに、私と藍梨は全然ちがう!! そんなの、そんなの、ズルい!!
ピアノも、運動も、お習字も、勉強も、絵も、ぜんぶ、ぜんぶ私より上で……!!」
「上とか下とか、ないでしょ。
あなたに邪魔されて、私はぜんぶ辞めちゃったんだし」
「でも、でも……こっちでもあなたは侯爵家、私は子爵家で……!!」
これは、嫉妬、ライバル心、対抗心みたいなものだろうか。それは、これまでの人生のなかで私が捨ててきたものだ。
たしかに私は、だいたいのことは、人並みにはできた。べつに、良くできたわけじゃない。人並みに、だ。
でも、少しでも成果をあげると、真音那に邪魔をされた。奪われた。
それが続くうち、いつしか私は、執着心やこだわりを捨てた。
私は、私。
やりたいこと、やれることを、私のペースでやる。邪魔が入ったら、またやり直すか、諦める。
(だって、いちいち感情的になって真音那を恨んでいたら、私はどこかでタガが外れてた)
きっと、真音那に酷いことをしていたと思う。
現に、こころの中では何度も、何度も、真音那を蹴り飛ばしてきた。
蹴り飛ばして、殴って、二度と私の前に姿を現さないでほしいと願ってきた。
(真音那は、私がなにかを持っていることが気に食わないんだ)
私の居場所も、持ち物も、友人も、恋人も、幸せも。そのすべてが、恨めしいのだ。
だけどきっともう、真音那にも、なにが自分の本心なのか見えなくなっているんだろう。
「……私は、王子にも、王子との結婚にも興味はない―――というか、無理。
王子の気持ちを引き止めたいなら、私じゃなくて王子にはたらきかけなさいよ」
そう言い捨てて、私は
夜は、修業を祝う小規模のパーティーが学院内で開かれた。
1~3年のⅠ・Ⅱクラス合同で開催され、先生方も参加するので、出ないわけにはいかなかった。
「アイリス。Sランク昇格、おめでとう」
会場の隅の椅子で静かに過ごしていると、白々しい笑顔を向けてきたのは
「……なにか御用でしょうか」
「乾杯するくらいいいだろ」
そう言って
「いつものヨキオット人はどうした?」
「女子達に囲まれてる。見りゃわかるでしょ」
「はははっ、あいつにも振られたのか、お前」
「真面目にウザいわね、あなた」
「なんだ、機嫌が悪いな」
眉間にできた皺をありありと見せつけながら、私はグラスを呷った。
「しかしいきなりSランクとはな。あのヨキオット人ととうとうヤったか?」
「……どうやったらそんな思考になるわけ?」
「叔母上といい、魔導術を覚えたばかりの野蛮な原始人と血を交えようなんて、理解できんな」
なにかのスイッチが、かちっと入った。
昼間の
手にしたグラスの中身をぶちまけてやりたかったけれど、すんでのところで耐え、ドンッとテーブルに置いた。
「……どっちが野蛮な原始人よ。あんたなんか性欲ばっかの勘違いゴリラのくせに!」
一緒に居るのも嫌になり、私は席を立った。
怒りがピークに達したせいか、心臓がばくばくと波打っていた。
苛立ちを抑えるため、しばらくトイレに籠っていた。
(あんなやつと結婚してただなんて、そう思うだけでも吐き気がする……!!)
このまま帰っちゃおうかな、などと考えながらトイレを出ると。
(あれ、なに、これ)
地面が急に、ぐらりと揺れた。
立っていられなくなり、私は体勢を崩して―――そのまま意識を、手放した。
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