03 藍梨と真音那





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 双子の妹・真音那まおなは、生まれつき病弱だった。先天性の病気とだけ聞いていたけど、詳しくは知らない。


 両親はいつも真音那まおなにかかりきりで、私は小さい頃から我慢強く、ひとりが得意だった。


 真音那まおなはよく、私の真似をしたがった。

 いつも私のものを欲しがるので、私はいつだって真音那の余り物をつかっていた。





 小学校の頃、私はクラスの男の子に片思いをしていた。

 それなのに、私の気持ちを知っていたはずの真音那が、いつのまにかその子と付き合っていた。


 夏休みの宿題で私が描いた絵を、真音那が自分の作品として提出してしまったこともある。

 私は絵を提出できなくて、先生から怒られてしまった。





 中学では、部活の同級生からある日突然無視されるようになった。

 理由がわからず、勇気を出してチームメイトに尋ねてみると。


「だって藍梨あいりちゃん、家では部活のメンバーの悪口ばっかり言ってるって……真音那ちゃんが言ってたもん」


 ……そう、言われてしまった。

 誤解だと伝えてもわだかまりは消えず、私は結局部活を辞めることになった。


 私は、真音那を問い詰めた。すると。


「そんなこと言ってない。あたしよりも、その子が言ったことを信じるの!?

 だってその子たち、クラスで藍梨の悪口言ってたよ? 藍梨が気付いてないだけで、みんなから嫌われるようなことしたんでしょ!」


 見事にまくしたてられ、私はなにも言えなくなってしまった。

 そのうえ父親には、「むやみに相手を疑うのは良くない」と釘を刺されてしまった。





 真音那は、だれからも愛された。

 人当たりがよく勉強もできたので信頼も厚く、中学では生徒会長を務めた。


 私は、人付き合いが得意な方ではなかった。部活をやめてからは、図書館や家で過ごしてばかりいた。





 真音那とのいびつな関係を決定づけたのは、中学3年のときだった。

 高校の推薦入学が決まっていたのに、真音那から万引きの罪を押し付けられたせいで、推薦取り消しとなってしまったのだ。


 結果として、両親からも、学校からも信頼を失い、噂が広まったことで学校にも居づらくなった。

 私は心を無にして、残りの中学生活を過ごすこととなった。





 その後も、真音那に邪魔され、奪われつづける人生は続いた。

 真音那は、私が打ち込んでいるもの、好きなもの、そのすべてに割りこんできた。





 その総仕上げが、私とモトオの結婚式だった。


 夫のモトオとは、会社経営をする父親の紹介で知り合った。

 モトオは、父の会社で若くして出世コースを順調にのぼっているエリートだった。


「苦労をしてきた子だが、根性はある。息子同然に思っているんだ。会うだけでも、どうだ」

「お父さんが、そこまで言うなら……」


 私は、恋愛にも結婚にも消極的だった。

 それでも、モトオと何度かデートを重ね、互いを知り。この人ならと、そう思えるようになった。


 今度こそ幸せになろう、円満な家庭を築こうと、思っていたのに。


「あっ、もう、人来ちゃうからぁ!」

「はっ……こんなとこで誘ってくるお前がどうかしてんだ……!!」


 結婚式当日の、花婿準備室で―――

 モトオと真音那まおなとの不倫現場に、出くわしてしまった。


 真音那のことは、結婚式にも呼んでいなかった。それなのに。


「まぁどうしたの、藍梨あいり?!」

「ま、真音那が、モトオさんと……っ!!」


 不倫現場を目撃した私は動揺し、両親に見たままのことを伝えた。

 両親がすぐに駆け付けたが、ふたりは「誤解だ」「挨拶をしていただけ」と誤魔化した。


 両親も、私の言葉を完全には信じられなかったようだ。だってのだから。


 両親に促され、その場で私はモトオとふたりきりにされた。


 初めは「見た目が同じだから藍梨あいりだと思った」と話していたモトオ。しかしふたりの様子からして、今日が初めての関係とは思えなかった。


 追求するうち徐々に苛立ちを見せはじめ、最終的にモトオから言い放たれた言葉。


「結婚なんか出世の道具に決まってるだろ。浮気くらいでガタガタ言わないでくれ」


 私はウエディングドレスを脱ぎ捨て、部屋を飛び出した。


 両親から連絡を受けたのか、真音那の夫が、真音那を迎えに来ていた。その夫も、のひとりだった。


 私は動揺して、式場をあとにした。

 モトオが追いかけてくる。その後ろからは、真音那、真音那の夫も。


(私は、どうしていつも奪われなきゃいけないの……!)


 それから間もなく、居眠り運転のダンプカーが歩道に突っ込んできて、私は轢かれた。

 モトオ、真音那、そして真音那の夫も、もろとも下敷きとなり命を落とし───





 そうして異世界へ、転生されてしまった。




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