02 元夫との最低な再会





 大講堂でのオリエンテーションを終え、各教室に移動する。魔導学院は、魔導力と進学試験の成績順によりⅠ~Ⅸの9クラスに分けられる。


 私は魔導力はBランクでも、成績でなんとかⅠクラスに滑り込んだ。

 アイザックも、同じクラスだった。


(外部生でⅠクラスって……アイザックはよほど優秀なのね)


 そしてこの教室で再び、会いたくない相手に遭遇する。


「アイリス様。Bランクなのに今年も滑り込まれたのですね」

「……ええ、なんとかね」


 ひとりは、真音那マオーナ

 全属性持ちオール・タイプスの魔導力Sランク。なステータス。

 中等部でも毎年同じクラスだったので予想通りではあるけれど、憂鬱だ。


 そして、もうひとり。


「モトーリオ王子と同じクラスよ! 手紙で家族に自慢しなくちゃ」

「本当に見目麗しいわ……!!」


 ダヴフリン王国の第一王子・モトーリオ。

 前世の私の夫、モトオ。


 式当日に妹・真音那まおなと不倫した、クソ夫だ。


と同じクラスとはな」

「モトオ……!!」


 金髪に、青い瞳。ふんぞり返って、無表情をこちらに向けてくる。


 前世の頃から偉そうな男ではあったが、王子という権威を得て一万倍くらい偉そうになった。

 成績は振るわないが魔導力Sランク。そして第一王子という文句なしのステータス。


 真音那マオーナは嫉妬しているのか、苛立ったようすで私を睨みつける。

 構いもせず、王子モトオは私に近づいてくる。そして正面から私の顎をつかみ、囁いた。


「よく学校来れたな、お前」


 全身の毛が逆立つ。

 王子モトオは私の首の後ろに手を回して、襟足を指でなぞりながら、今度は耳元で囁く。


、前世の俺は死んだんだぜ? これから嫌ってほどいたぶってやるから、覚悟しろよ」

「っ……!!」


 嫌悪感が、最高潮に達した。

 私は思わず、王子モトオの手を振り払った。


 すると、真音那マオーナがつかつかと私の傍まで歩み寄り。

 一瞬の迷いもなく、私の頬を平手打ちした。


「王子殿下に対してそのような無礼な態度、いくら元婚約者とはいえ、許されません!!」

「…………っ!!」


 言葉が、出なかった。

 なんで私が、叩かれたのか?

 転生から数週間ですでに婚約者モードかよ、と思いながらも、言うべき言葉がみつからない。


「なにかおっしゃったら……」

「待テ」


 真音那マオーナを制すように控えめに手を掲げたのは、アイザックだった。


「痛いノ、やめル」

「…………」


 アイザックに言われ、真音那マオーナは「申し訳ありません」と頭を下げた。

 教室は、しんと静まりかえっていた。





 · · • • • ✤ • • • · ·





 初日のオリエンテーションを終えると、寮にやってきた。

 入寮手続きを済ませ、今日から暮らすことになる部屋を探す。


「北側の最奥とは……軽い軟禁ということね」


 寮の部屋はクラスやランク、身分に関係なく、抽選制……と言われてはいる。


 しかし、過去に問題を起こした生徒に対しては、他の生徒との接触を減らすために学院側が部屋割りを操作することがある。


 断罪も誤解だし、婚約破棄も私のせいではないけれど、学院としては面倒ごとはできるだけ避けたいのだろう。


「ま、かえって気楽で良いかもしれない」


 私は荷物を下ろすと、部屋の掃除を始めた。


〖除湿〗ディヒュミディファイ! ……うんうん、いい感じ」


 火・水・木・土・大気の5属性のうち、私の適正は大気属性。

 魔導術をつかい、部屋の湿度を調整する。北向きの部屋のジメジメ感は、なくなった。


 王立魔導学院とはいえ、自由に魔導術がつかえるわけではない。


 魔導術が自由につかえるのは、Sランクの者のみ。Bランクの私は、寮内では【軽魔導術】 ライト・ソーサリー しかつかえない。


「それでも、部屋の掃除くらいなら簡単にできちゃうし……魔導術ってほんと便利」


 空気を入れ替え、埃をとり、ベッドに日光を当てて。

 【軽魔導術】のみを使って掃除を終えると、私はベッドにばたんと横になった。


「あ~~~……これでお風呂があったら最高なのに……こんど作ろう……」


 手放しそうになる意識を引き戻し、今日のできごとを思い返す。


(やっぱり、恨まれてたか……)


 私の夫を寝取った真音那

 私の妹と不倫をしたモトオ


 覚悟はしていた。

 どちらもきっと、自分が悪いだなんて思っていないだろうと。

 それどころか、ことを、恨んですらいるかもしれないと。


(でも……、私だって死ぬことはなかった)


 たとえ真音那とモトオから悪意を向けられたとしても、私は何も悪くない。

 そう強く思っておかないと、これからの学院生活はきっと苦しくなる。




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