17 元夫の拗れた執着心





 ひどい頭痛で、目を覚ます。


「起きたか」


 薄れる意識のなか聞こえたのは、第一王子 モトオ の声。


「な……にが……」

「廊下でぶっ倒れたお前を、運んできただけだ」


 目を開けると、見覚えのない部屋のベッドに寝かされていた。


「ここ、どこ……」

「学院内の隠し部屋みたいなもんだ。場所を知っている者しか、入れない」

「なんで、こんなとこ……」

「時間はたっぷりあるんだ。じっくり話そうぜ」


 徐々に意識を、取り戻す。

 そして、両手が縛られベッドに繋がれていることに気が付いた。自分がどれほど危険な状況にあるか、ようやく理解する。


 頭痛を堪えながら足元にあった鞄に手を伸ばすと、第一王子 モトオ がそれを遮った。


「おっと、術符は使うなよ。魔導術も、ダメだ」

「んんっ!!」


 さらに、口元をなにかで覆われ、言葉を発することができなくなった。これでは、魔導術を使うこともできない。


「お前ってほんと、かわいくねーよなぁ」

「んー、んーっ!!」


 第一王子 モトオ はベッドに縛られた私を、組み敷いた。


「お前も、お前の親父もさ。ずーっと俺を下に見てたもんな」


 私の父親。

 モトオにとっては雇い主であり、私との結婚を推し進めた人物でもある。


「《モトオは苦労してきたから》ってお前の親父に言われるたびに、吐き気がしてたんだ。好きで苦労してたわけじゃねえってな。

 そのくせ部下には《苦労は買ってでもしろ》っつーんだぜ!? 金払ってまで苦労するバカがどこにいるっつんだよ、ナメてんのか!!」


 父親は、モトオの働きぶりを買っていた。だからこそ私に、モトオを紹介したのだ。

 モトオの採用を決めたのも、父だった。生い立ちで苦労してきたことを知り、息子のようにかわいがって育ててきたと話していた。


「アホだよなぁ。俺を信じて娘を嫁にやったその結果が、このザマだ!! お前の父親は今頃首吊ってっかもな!!」


 情けなくて、腹立たしくて、泣きそうになるのを必死に堪える。感情がぐちゃぐちゃで、追いつかない。


 なんでこんな男に。父のせいか。父は悪くない。結局選んだのは私。捨てられたのも私。父は大丈夫だろうか。母は。新しい世界でのうのうと生きる私。なぜ。だれのせい。だれが。真音那は。


「俺がなんでお前にこだわるかわかるか? 結局お前は、なにもかも持ってんだよ。

 前世でも親に守られてぬくぬくと育って、今だって結局お前は侯爵令嬢として将来を保障されてる。

 そのくせ、なにも要らねえって顔してんのが、心底腹立つんだ」


 モトオは私の上に跨り、唾を散らしながら言葉を吐いた。

 耳をふさぎたかったけれど、手を縛られているせいで、ふさげなかった。


「だから俺は、お前を傷つけたい。お前が俺との結婚を嫌がるなら、何が何でも結婚してやる」


 狂っている。真音那も拗れているけど、モトオも。

 そしてそんなふたりに執着される私も、きっとなにか、どこかのネジが外れているんだろう。


 モトオはおもむろに、私の制服のボタンを外しはじめた。


「ん、んっ……!」

「どうせまだ、ヨキオット人とは寝てないんだろ? まずは処女かどうか確かめて……」


 暴れる私を組み敷きながら、モトオが私の胸元に触れる―――その瞬間。


「おい、おい!! アイリス、いるのか!?!?」


 部屋の外から、アイザックの声が聞こえた。


「んーっ!! んんーっっ!!!」

「ちっ……」


 口元をふさがれたまま、私は全力で声をあげた。モトオは舌打ちをすると、部屋の奥のドアから出て行った。


 それからまもなくして、部屋の扉が開け放たれ。

 私はふたたび、意識を手離した。




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