12 サレ妻と、サレ夫
長い休暇が、明けた。
相変わらず私はクラスで浮いた存在だったけれど、嫌がらせの頻度は減っていた。
女生徒たちは、ほかの関心ごとで頭がいっぱいだったのだ。
「モトーリオ王子殿下の誕生日パーティーまで、あと2ヶ月しかないなんて!」
「わたくし、まだエスコートの相手が決まっていないの……」
2ヶ月後に迫った、
みんな、その日のためのドレスやエスコートの相手選びに大忙しなのだ。
どうせ行かないから関係ない、と思っていたが、Ⅰクラス・Ⅱクラスの生徒は強制参加らしい。
(仮病を使うか、ギリギリになって余ってる男子にエスコートを頼めばいいわ……)
アイザックやロニーに頼むことも考えたけど、それは最終手段だった。手紙事件のように、ふたりが攻撃対象になるのは避けたかったからだ。
「モトーリオ王子殿下は、マオーナ様で確定ね」
「弟のサレオット王子殿下は、どなたをエスコートするのかしら」
「同じクラスの方では? 第二王子とはいえ、Cランクですものね……」
不穏な女生徒らの会話を聞きながら、廊下の角を曲がった瞬間。
棒立ちしていた男子生徒に、顔面からぶつかってしまった。
「
しまった、と思ったが、遅かった。
今まで、関わらないようあえて避けてきた、相手。
「…………
「俺の噂が聞こえて、隠れてた」
モトーリオ第一王子の双子の弟。
第二王子の、サレオット。
そして、一緒に転生してきた4人のうちのひとりでもある。
前世の名は、
真音那の夫であり、W不倫のサレ夫。
そして、私にとっての因縁の相手でもあった。
· · • • • ✤ • • • · ·
高校卒業後、私は
第一志望の大学は、真音那の妨害にあって不合格だったからだ。
それでも、学科が違えば日中はほとんど顔を合わせることはない。
真音那と同じく実家からの通学ではあったものの、私の生活はずいぶん平和になった。
私は、同じ研究室の先輩・
一人暮らしの
麗央は大学院に進み、大学での研究を続けていた。
私も4年生になると卒業研究論文の作成に忙しくなり、実家に籠って論文を進める日々が続いた。
麗央は研究が思うように進まず、忙しいようすだった。
連絡が返ってくるのが遅くなったと感じたある日───突然、メールで別れを告げられた。
ショックだったが、互いに忙しかったこともあり距離ができてしまったのはたしかだった。
私は「わかった」と一言だけ、返信した。
その、数日後。
私が進めている卒業研究とまったく同じ内容の研究論文が、学会で発表され受賞したと知った。
しかも、その発表者は麗央だった。
わけがわからなかった。
私の卒業研究は個人研究だったので、ずっと実家のパソコンで作成を進めていた。外部に漏れるはずがない。
おおまかな研究内容は教授に伝えていたものの、それだけでこれほど酷似した論文が書けるはずがない。
麗央に電話をしても、繋がらず。状況が掴めず、教授にもどう伝えれば良いのかわからなかった。
そして、いやな確信が降って湧いてきた。
私以外に、私のパソコンに触れられる者。それは、家族しかいなかった。
しかし、真音那を問い詰める気には、なれなかった。
どうせ、証拠もないのに疑うのかと、言われるだけだ。
それになにより私はもう、真音那と関わり合うことに疲れてしまっていたのだ。
「研究テーマが似通ってしまったから」と嘘をつき、私は別のテーマで書いた卒論を提出した。
麗央と顔を合わせたくないので、適当な理由をつけて研究室にもいかなくなった。
大学を卒業し、就職し。
それから1年もたたず、真音那の結婚が決まったと、母親から連絡が来た。
結婚相手は、麗央だった。
やはり、私の予感は的中していた。
真音那は麗央となんらかの繋がりをもち、恋人となり、私の卒業研究のデータを麗央に渡したのだろう。
麗央は、自身の研究に躓いていた。あってはならないことだが、魔が差してそのデータを流用してしまったのだろう。
これをきっかけに、私は真音那との一切の関わりを断った。
実際に、大学を卒業してから一度も顔を合わせることはなかった―――モトオとの結婚式の、あの瞬間までは。
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